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モンタナではなくロス?

2022年5月29日

1976年シーズンの大活躍でトニー・ドーセットはその商品価値を大いに上げましたが、翌77年ドラフトの全体1位指名権がタンパベイ・バッカニアーズに確定した時点でヘッドコーチのジョン・マッケイは教え子のリッキー・ベルを指名するというのが既定路線化していました。となると2位指名権を持つシアトル・シーホークスがドーセットほどの逸材を回避するとは思えず、これはもしジョー・ロスがパフォーマンスを落とさずに活躍できていたとしても、おそらく変わらなかったでしょう。ドーセット自身、ドラフト前にシアトルを訪れてリップサービスするなどそれを許容するそぶりを見せていましたが、内心は違ったようです。

シーホークスもバッカニアーズ同様創立2年目の弱小チームです。ベルのようなパワーで進路を抉じ開けるタイプならまだしも、ドーセットはデイライトランナー(隙間から射す光に向かって走る、つまりディフェンスの穴を探してすり抜けるという意味)です。ざるのような攻撃ラインでは走りたくなかったのでしょう。いろいろと工作したようです。結局シーホークスとしても全体2位指名したあげく拒否されてCFLにでも行かれてしまっては元も子もないという考えに至ったわけです。

当然多くのチームが興味を示しましたが、中でもニューヨーク・ジェッツが最も乗り気でまとまる寸前だったそうです。しかし前年ドラフト3巡で獲得した期待のLBグレッグ・バトルをシーホークスが欲しがったためご破算になったとのこと。ジェッツはもったいないことしましたよねえ。ジョン・リギンスの放出直後であり、81年のフリーマン・マクニール獲得まで帯に短し襷に長しのRB陣で遣り繰りすることになります。最終的にドーセットを獲得したのはダラス・カウボーイズでした。ヘッドコーチのトム・ランドリーが久しく不在だった「ゲームブレークランナー」としての能力を高く評価し、強力に推したようです。カウボーイズは翌年スーパーボウルを制覇することになります。

このドラフトで最も早く指名されたQBは1巡目19位のセントルイス・カーディナルス、スティーヴ・ピザーキーウィッツ(ミズーリ大)ですが、ロスがそこまで残っているはずはありません。順を追ってみていくと、3位のシンシナティ・ベンガルズにはリーディングパサーのケン・アンダーソンがいます。4位のニューヨーク・ジェッツは前年1巡6位でリチャード・トッドを獲得したばかり。となると次のニューヨーク・ジャイアンツですね。この頃のジャイアンツはどん底でどのポジションにもテコ入れが必要でしたから、史実通りディフェンダーを指名していた可能性が無きにしも非ずですが、再建途上であるチームのフランチャイズプレーヤーになり得るロスの獲得は大きなメリットがあったでしょう。9位のグリーンベイ・パッカーズ、10位のカンザスシティー・チーフスもQBの補強は急務でしたから遅くともこの辺りでは指名されていたはずです。が、九分九厘ジャイアンツが指名したと思います。

カリフォルニアボーイから全米の注目を集める大都市ニューヨークのスターQBへ。なかなか良いストーリーです。チームは79年にレイ・パーキンスがヘッドコーチに就任するまで低迷を続けますが、そのあとを受け継いだビル・パーセルズの時代に黄金期を迎えます。ということはスーパーボウルリングを獲得したのはフィル・シムズではなくロスだった可能性大です。80年代最高のQBはジョー・モンタナで衆目は一致していますが、その歴史が覆されていたかもしれません。確かにモンタナはチームに勝利を呼び込む偉大なリーダーでしたが、QBとしてのスキルはロスが遥かに上回っていたと思うのです。

僅かに残された映像を見ても彼の素晴らしさはわかります。肩は70年代NFL最高の強肩と謳われたバート・ジョーンズやテリー・ブラッドショー、大学の先輩スティーヴ・バートカウスキと同等、リリースの速さはこの三人以上です。ダン・マリーノの登場以前、彼ほどのクイックリリースはちょっと思い当たらないほどです。193cm93kgの大型ポケットパサーながらモビリティーもありました。彼をトム・ブレイディ―と比較した記事を見たこともあります。在りし日の彼を知っているオールドファンは、それほどの可能性を秘めた存在だったことを今も記憶しているのです。

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Posted by hiro