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無名の新人 ジル・ヴィルヌーヴ

2022年5月29日

ロニー・ピーターソンの後輪に乗り上げて宙を舞い、観客が死亡する事故を起こしたジル・ヴィルヌーヴはこれがF1参戦3レース目。日本では全く無名の存在でしたが、すでに欧州のレース関係者にはその余りにも攻撃的すぎるドライビングスタイルが注目されていました。私は知りませんでしたが、来日時には翌年ニキ・ラウダに代わるドライバーとしてフェラーリとの契約を済ませていたようです。無名の新人がフェラーリのレギュラーシートを掴むなど異例中の異例です。よほどエンツォ・フェラーリに気に入られたということですね。

ところがこの新人、予選で全く振るわず後方に沈んでいました。正直「フェラーリに乗っているのに何故こんなに遅い?」と思ったものです。観戦した場所が場所だけにドライビングの違いが分かるはずもなく、エースに昇格したカルロス・ロイテマンとのタイム差で判断したのです。こんなことではすぐクビだなとさえ思っていたので、後年伝説のドライバーになるなど全然想像できませんでした。

その後彼のレースに対する真摯な姿勢、超攻撃的なドライビングスタイル、芸術的なマシンコントロールなどを知るにつれファンになっていきました。「サイドウェイ・ロニー」と呼ばれたピーターソンが亡くなったことも重なって、ピーターソン以上にマシンを常にドリフトさせる派手なドライビングで瞬く間にスターダムへと伸し上がったのです。

5年に満たない短いF1生活におけるエピソードは枚挙に暇がなく、どれもが驚くべきものです。『Wikipedia』にもその多くが掲載されているので割愛しますが、要約すると

・そのドライビングセンスは正真正銘の天才
・芸術の域と言える正確無比なマシンコントロール
・誰よりもアクセル全開時間が長くドリフトを多用する超攻撃的で派手なスタイル
・市街地コースや雨天時など、路面状況が悪い中での圧倒的パフォーマンス
・全てをレースに捧げる情熱とリスクを恐れない勇気

この5点に尽きるでしょう。反面、マシンを労わることには無頓着であり、余りに危険すぎるとの批判もありました。

過去の記事において、私はヴィルヌーヴを史上最速のF1ドライバー9位に挙げました。賛否両論あるでしょう。リザルトしか知らない人は高すぎると思い、リアルで経験しているならば過小評価と言われることは容易に想像できます。難しいんですよ、余りにも記録より記憶に残る存在なので。冷静に考えると、彼のチームメイトはカルロス・ロイテマン、ジョディー・シェクター、ディディエ・ピローニです。シェクターは世界チャンピオンであり、ロイテマンとピローニは目前で逃した実力者。この3人に対し、決してタイムで圧倒したわけではないんですよ。つまり派手なパフォーマンスで観客を魅了したものの、それがタイムに直結したとは言い難い。そう判断したのです。ただ「史上最高」ならば、迷わずトップ3には入れますね。

惜しむらくはオンボードカメラ映像がないことです。ピーターソンのは見ましたが、さすが「サイドウェイ」に相応しいエキサイティングなものでした。路面のバンプに跳ねまくるじゃじゃ馬をコントロールするために、直線でさえカウンターを当て続けていたというヴィルヌーヴのオンボード映像はそれに輪をかけたものでしょうから、想像するだけでワクワクします。

それからアイルトン・セナとの雨中の対決が見たかったなあ… ヴィルヌーヴは雨のセッションで2位を11秒(!)離したことがあります。ニュルブルクリンク旧コースならともかく、5.4kmのワトキンスグレンですよ。スノーモービル出身の彼からしてみれば雨なんてお茶の子さいさいだったかもしれず、たとえセナでも勝つのは至難の業だったのではと思います。

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Posted by hiro