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お人好しで野球に勝てるか

2022年5月30日

MLBに関する少ない情報を『週刊ベースボール』に求めていたころ、ちょうど連載されていたのがレオ・ドローチャー自伝『お人好しで野球に勝てるか』です。出会いが連載途中からということもあって精読していたわけではありませんが、随所に「古き良きアメリカ」を感じさせるとともに、日本との文化の違いに気付く契機になりました。

そんな折、そのドローチャーが太平洋クラブライオンズの監督に招聘されたというニュースを知ったのです。驚きましたねえ。ベイブ・ルースと一緒にプレーした人ですよ。名将とはいえ完全に過去の人だと思っていたのでまさかと思いました。結局病気で来日できずに御破算になったのですが、単なる話題作りという疑念も残りました。しかし関係者の証言では双方真剣だったようです。

そんなことがあってドローチャーやかつてのMLBへの興味が深まっていた時に、書店で単行本を見つけたのです。迷わず買いました。面白かったですねえ。「大口叩き」で有名な人ですから、多少の誇張や自己弁護はあったかもしれませんが、単純に読み物として面白かったです。

ドローチャーという人は現役時代のみならず、監督になってからも問題児扱いされていて、その手のエピソードは実に豊富です。タイ・カッブに喧嘩を売ってルースに助けられたとか、そのルースに悪戯を仕掛けて列車の窓から逆さに吊るされたとか(笑) 私生活も派手で借金まみれになりながらも社交界に入り浸り、マフィアとの関係が取り沙汰されるなど、とにかく破天荒。負けん気が人一倍強く、勝つためには何でもあり。そのために頭を使って常に全力でプレーすることを求め、ルール違反ギリギリのチャレンジをしてうまくいったら儲けものという熱血漢でした。そのため退場を食らった回数もジョン・マグロ―に次ぐ歴代2位(現在はボビー・コックスに抜かれて3位)審判たちとの虚々実々なやり取りも記されています。

権力を笠に着る人間への反抗心も強く、特に監督時代のコミッショナーであるハッピー・チャンドラーとドジャースのオーナー、ラリー・マクフェイルをこきおろしています。一方で、良き理解者だったヤンキース監督ミラー・ハギンス、カーディナルスのGMブランチ・リッキーには素直だったようです。

選手としては強力打線のヤンキースにあって貧打の遊撃手でしたが、守備は一流でした。現役時代から将来監督になることを夢見ており、仕えた監督から帝王学を盗んだようです。彼の抜け目なくずる賢い野球は「ガスハウスギャング」として一世を風靡したカーディナルス時代の選手兼監督、フランキー・フリッシュの影響が大きい気がしますね。

監督としてワールドシリーズ制覇は2回ですが、低迷するチームを強くする手腕に長けていました。カンフル剤的に選手を刺激して発奮させる典型的なタイプですね。反面長期にわたってダイナスティーを築くことは、性格的に無理だったようです。とにかくフィールド内外で頻繫に物議を醸す問題児ですから。特にほぼ20年Bクラスに沈み続けていたシカゴ・カブスを、短期間で優勝を争えるまでに引き上げたのは見事です。
しかし70年代に入ると、どんどんビジネスライクな考え方に傾く新世代の選手たちとの軋轢が増えて「自分の野球はもう通用しないのか?」という諦念すら感じさせるようになっていきます。そんな時に日本から招聘されたので、彼は大いに乗り気だったのではないでしょうか。高齢で健康の問題もあり、もし実現していても長くは指揮できなかったでしょうが、一瞬でも驚くような采配を見せて日本の野球界に一石を投じてくれたのではないかと想像しています。

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Posted by hiro