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『ボール・フォア』

2022年5月30日

『お人好しで野球に勝てるか』の後、MLB選手の自伝をいくつか読みましたが、最も衝撃的だったのはジム・バウトン著『ボール・フォア』です。1962年にヤンキースでメジャーデビュー、翌年には21勝を挙げて将来を嘱望される速球投手でしたが、肩を痛めて成績は下降の一途。69年新球団シアトル・パイロッツに移籍、シーズン半ばにヒューストン・アストロズにトレードされます。『ボール・フォア』はこの69年シーズンの出来事を赤裸々に吐露したものです。

登場人物は個性的でアクの強い人間ばかり。野球選手は変人の集まりかとさえ思うほどです。そんな中で札付きの問題児とされていたバウトンはといえば、まさに傍若無人、自分のことを棚に上げて周囲に対し辛辣です。パイロッツの監督ジョー・シュルツ、投手コーチのサル・マグリーには尊敬の欠片もなく、彼らは完全に狂言回しの役割です。「野球選手は鍛えられたアスリートの集まりだと思ったら大間違い」とか「練習中は野球より観客席の女の子をピーピングするのに夢中だった」など物議を醸す記述も数知れず。選手生活の内実を暴露しています。

すでに黒人選手に門戸が開かれて久しいですが、この頃以降中南米カリブからの流入が顕著になり、白人選手のシェアは現在でも下がり続けています。大統領の年棒を上回ったのはベイブ・ルースが最初ですが、今やスーパースターの収入は桁違いの多さです。バウトンの時代はまだフリーエージェント制の導入前ですから、比較にならないほど安かったのは当然ですが、白人選手はもしメジャーに上がれずとも第二の人生でそれなりの職業につけたであろうこと、有色人種の場合そう簡単ではなく、それこそ後がない気構えだったのではないか。所謂ハングリーさの違いが大きく影響したと思います。今ほど稼げる可能性があったなら全てを野球に捧げる価値があったでしょうが、当時の白人選手には、そこまでする意味を見出せなかったのではないかと。つまり趣味の延長で現役の間にそこそこ稼げればいいやというような… それがバウトンの記述に集約されているような気がするのです。

もしバウトンがレオ・ドローチャーの下でプレーしていたら、どうなっていたでしょう。問題児同士うまくやっていけた? そうは思いませんね。ドローチャーは手抜きを許せない人ですから、お互いケチョンケチョンにこきおろしていたのではないかと思います。

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Posted by hiro