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ピリッポスとアレクサンドロス

アレクサンドロス3世の偉業は歴史上燦然と輝くものですが、その礎を築いたのは父ピリッポス2世です。マケドニア式ファランクスを創始し、兵站体系を改革して進軍速度を大幅にアップさせたのも、財政基盤を確立して中央集権化に成功したのも彼です。ペルシア遠征も彼が意図したものをアレクサンドロスが引き継いだものです。実行に移る寸前にピリッポスは暗殺されるのですが、これにアレクサンドロスが関与していたという説があります。私は動機が不足しており、憶測と思います。

まずピリッポスから見て、アレクサンドロスは申し分のない後継者だったでしょう。自らが選んだ家庭教師アリストテレスに師事させギリシア的教養を身に付けたアレクサンドロスは武勇にも優れ、ピリッポスが望むとおりに成人していたはずです。アレクサンドロスが即位後父の路線を全て継承していることからも、政治的対立があったとは思えません。もちろん親子間での弑逆・簒奪は古代においてしばしば起こったことです。何らかの個人的事情があったかもしれず完全否定はできませんが、仮に動機があったにせよ積極的に関与するのはリスクが大きすぎます。ただ母であるオリュンピアスが黒幕とするならば、計画を知っていながら静観した可能性はあると思います。

ピリッポスが健在な場合も征服事業は達成され、アレクサンドロスは前線指揮官として陣頭に立って武勇と知略を発揮し、兵士たちの尊敬を集めて後継者としての地位をより盤石なものにしたでしょう。ピリッポスがペルシア征服後さらに東を目指したかはわかりませんが、いずれにせよ老境に差し掛かる彼はアレクサンドロスに託すでしょうね。おそらく若いアレクサンドロスは征服地の拡大に乗り出すはずです。

インド遠征後アラビアを征服した彼がどこへ向かうか? 再び古代から人的資源が豊富なインドを目指すと全土征服は難しいでしょう。中心であるガンジス川流域のナンダ朝を臣従させることができれば良しとするのではないでしょうか。それ以上足を突っ込むと兵力の供給が需要に追い付かず、割に合いません。戦略眼に優れたアレクサンドロスがそんな愚を犯すはずはないですね。

面白いのはユーラシア・ステップを東進した場合です。この時点までピリッポスが存命であるかないかに関わらず、アリストテレスに心酔していたアレクサンドロスの目的は、異民族を啓蒙して全世界をギリシア化することだったと思うのです。ペルシアで実施したように現地人との融合政策を進めていくでしょう。この時代の中央アジアには、後の匈奴や突厥のような大勢力は存在しないので、行く手を阻むものを各個撃破するのは容易でしょうし、従属するものには寛容に接して自軍に取り込むことで騎兵は大幅に増強されます。要所にアレキサンドリアのような城塞都市を築いて補給拠点とし、兵站に万全を尽くすと思われます。その先に見えてくるのは… そう、中国です。

当時の中国は戦国時代、周朝は存在してはいるものの諸侯が相争う戦乱の真っただ中です。仮にアレクサンドロス襲来の報を受けても、早期に統一行動をとることはできず、真っ先に矢面に立たされるのは北方の趙でしょう。この頃の中国では二頭立て戦車が主力で騎兵はおろか、歩兵も質量ともに充実していたとは言い難く、野戦に訴えれば完膚なきまでに打ち破られたと思われます。また中国の都市はそれ自体が城塞ですから守戦に徹して敵の撤退を待つにしても、マケドニアは攻城兵器も当時最先端のものを持っているので厳しいですね。そもそも後詰のない籠城が自殺行為に等しいのは古今東西を問いません。

私の想像では名目のみとはいえ宗主である周を臣従させれば、深追いせず引き上げたと思います。インド同様広大で多くの諸侯が割拠する中国全土を制圧するのはハイリスクでローリターンだと頭脳明晰なアレクサンドロスは看破するのではないでしょうか。当時覇を争っていた秦と斉が彼の襲来を深刻な脅威と受け止め、楚を含めた大同団結軍を組織する可能性は低いと思いますが、そうなったら面白いですね。この場合大同団結軍は失地回復を目指して進軍するわけですから攻勢をかけていく、つまりどこかで野戦に打って出ることになります。ただ、この時期の中国には諸侯を束ねて難敵に当たり得るほどの名将は存在しません。諸侯の中にはアレクサンドロスと通じて事後の勢力拡大を図ろうとする動きが出てくる可能性もあります。

アレクサンドロスとしては後顧の憂いをなくすため、大同団結軍を迎え撃つはずです。 場所は魏か韓の故地いずれかでしょう。 ファランクスは正面攻撃には強いので、敵わじとみた中国側の戦車は側面に回り込もうとするはずです。そこをより機動に勝る騎兵を駆使して包囲する、カンナエの戦いのような殲滅戦になったのではないでしょうか。大同団結軍は兵力で圧倒できると踏んでいたでしょうが、アレクサンドロスは東征の過程で大幅に増強された騎兵を主戦力とし、ファランクスをむしろ囮に使う。彼ならやりそうです。

秦は地理的に考えるとあえて別行動をとってアレクサンドロスに二正面での戦いを強いるかもしれません。それはそれで理にかなった戦略ではありますが、当時の秦には白起も蒙恬もいません。よほど斉楚軍と連携を密にし、かつ機を見るに敏な将帥がいなければ各個撃破されるでしょう。

しかし、こうなるにはあらゆる面でポジティブに運ばないと無理ですね。広大すぎる領土は如何にアレクサンドロスといえど単独で運営できるはずはなく、東征中に後のディアドゴイによる内紛が起きるかもしれません。おそらく征服事業は頓挫して完遂することはなかったというのが私の結論です。

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Posted by hiro