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アメリカの良心

8月12日はアメリカの名優ヘンリー・フォンダの命日です。ハリウッドの全盛期を支えた一人である彼は数々の名作に主演しています。『十二人の怒れる男』での陪審員8番、『アパッチ砦』のサースデイ中佐、珍しく悪役を演じた『ウエスタン』などが印象に残っていますが、出色なのは『荒野の決闘』でのワイアット・アープ役でしょう。

私が子供の頃、アープは「強きを挫き弱きを助ける正義漢で善良な市民の味方」という見方が定着していましたが、それはこの作品をはじめとする映画での扱いが大きく影響していたようです。近年では1994年の映画『ワイアット・アープ』での描写が実像に近いとされています。つまり単純に正義と悪の対決と呼べるものではなく、アープ側も一皮剝けばクラントン兄弟と大した違いはないということです。

開拓時代の西部は法整備が進んでいないこともあって私刑で縛り首にすることもままある世界で、力(この場合は銃)が物を言いました。また州の権限が強いため、連保政府に訴追でもされない限り他州に逃げ込めば御咎めなしとなることが多かったようです。そんなこともあって保安官が元ならず者であったり、その逆もまた然りという状態では善悪の境界が曖昧になるのは当然ですよね。

「アメリカの良心」と言われたフォンダのアープは勿論悪党には見えず、この映画のアープ役にはうってつけです。殺伐とした西部の町に生きる一般市民の生活も描かれ牧歌的な叙情を醸し出しています。ダンスパーティーでいかにも「私を誘って!」と言わんばかりのクレメンタインに対し、躊躇してなかなか踏み込めないアープが微笑ましいです。彼をアープと知らなかったオールドマン・クラントンが、アープがトゥームストーンの保安官になったことを聞いて半ば嘲笑気味に名前を尋ねるや否や、「アープ、ワイアット・アープ」と言い捨てて去った場面も好きですね。愕然としたオールドマンの表情から困惑と悔恨が見て取れます。酒場でドク・ホリデイと一触即発になった時、丸腰だったアープに銃を渡すようバーテンダーに促すのを待たずに弟モーガンが銃をアープに向かってカウンターを滑らせる場面もいいですね。

ドク・ホリデイ役のヴィクター・マチュア、これがまたいい! 彼を初めて目にしたアープが思わず「いい男だな」と呟くのですが、なるほどその通りです。子供の頃はマチュアの顔をカッコイイとは思わなかったのですが、今ははよく分かります。苦味走った大人の魅力を、危険な雰囲気とともに発散しています。

史実と大きく異なる脚本とはいえ、この作品が西部劇史上屈指の名作であることに議論の余地はないでしょう。以前の記事『好きな洋画ランキング』で私は10位に挙げました。ディレクターズカット版をぜひ見たかったものです。

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Posted by hiro