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日本のいちばん長い日

今年も終戦記念日がやってきました。この時期になると毎年のように放映されるのが1967年の映画『日本のいちばん長い日』です。ポツダム宣言を受諾しては日本の国体護持が望めないとして決起した青年将校が起こした宮城事件は、事の成り行き次第では戦争終結の機会を逸して国体護持どころか日本民族の滅亡にすら繋がりかねなかった極めて重要な事件です。

私は以前の記事で、この映画を好きな邦画の1位に選びました。豪華絢爛たるキャスティングは勿論、モノクロ映像であることが恰も実写ドキュメントであるかのような緊迫感を増幅して手に汗握ります。何度見ても飽きることがないですね。

この映画がリメイクされると知った時、オリジナルには到底敵わないであろうとは思いましたが、主演が大好きな役所広司さんでしたから、その一点のみに期待して見ることにしました。結果はやっぱり… というものでした。役所さんは勿論素晴らしいですが、全体的に切羽詰まった緊張感に欠けます。モノクロとカラーの違いもありますが、全てにおいて小綺麗過ぎるんですよ。オリジナルの出演者たちは皆所謂「昭和顔」で泥臭い、まるで記録映画から抜け出たかのような迫力です。今時の若者にそれを求めるのはそもそも無理なのは当然ですが、制作サイドでもうちょっと何とかできなかったかなあという気がします。特に青年将校たち、国の行く末を憂いて成否を問わず信じる道に邁進する迸るような熱情の伝わり方に雲泥の差があるように思えます。またリメイク版では家族模様にも焦点を当てていますが、これも緊迫感を失わせた要因ですね。オリジナル版にホームドラマ的要素は一切ありません。

それにしても、もしクーデターが成功していたらと考えるとゾッとします。終戦に持っていくにはまさにギリギリのタイミングで、この機を逃したら悲惨な結果になったのは目に見えています。ポツダム宣言を受諾せず継戦していればさらなる原爆投下もあったでしょう。最も恐ろしいのはアメリカの意向を無視してソ連が北海道に侵攻したであろうことです。そうなれば日本は朝鮮半島のように分断され尚且つ東西冷戦の最前線になって、いつ武力衝突が起きるかわからない極めて危険な状態になります。原爆投下を擁護するつもりはないですが、もしそれが日本の指導者層を終戦へと向かわせる要因になったのならば、大きな意味があったと考えています。

青年将校たちは本当に勝てると思っていたのでしょうか? 確かに艦艇の殆どを失い継戦能力のなかった海軍と比べて陸軍には余力があったでしょう。心中では異を唱えながらも強硬論に迎合せざるを得ない空気があったというなら、それはそれで理解できます。軍人が国に殉じるのもいいでしょう。しかし多くの民間人を道連れにするのでは話が違います。逆に勝てると信じていたなら、その方が問題の根は深いと思います。

もともと陸海軍間に情報共有の意識が欠けるどころか、同じ陸軍内海軍内でも他部門への責任転嫁が目立つ日本軍ですからねえ。クーデター計画の中心となった陸軍省軍務局ですら前線の絶望的な状況を把握していなかった可能性はあると思います。やはり風通しの悪い組織は硬直化していずれは腐食してしまうのでしょう。

理解できないことがもうひとつあります。クーデターの首謀者達には戦後まで生きながらえた人物が多いことです。天皇の意に背くという大罪は極刑に当たるものですが、軍自体が消滅したことで裁かれることはなかった彼らにも勿論各々の事情があってのことでしょう。しかし自決した将校たちの潔さに比べると、何とも腑に落ちないのです。

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近代

Posted by hiro