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リンカーン、ワシントン、ルーズヴェルト

1860年11月6日共和党のエイブラハム・リンカーンが民主党のスティーブン・ダグラスらを破って16代アメリカ合衆国大統領に当選しました。このとき彼は北部と西部を押さえましたが、奴隷制度を擁護する南部諸州では勝てないどころか過半数の州で候補者名簿に載ってすらいなかったのです。この選挙結果が契機となって南部諸州は合衆国からの脱退を宣言、南北戦争へと突き進んでいきます。

結党以来奴隷制度に反対する北部の商工業者を支持基盤とし、革新主義的政党だった共和党が南北戦争を経て資本家及び大企業の利益を代弁する保守政党に変化したのに対し、大農場主に支持され連邦政府の権限強化に批判的な南部を地盤としていた民主党がニューディール政策を機に左傾化し、都市部の低所得者層やマイノリティーを支持基盤とするリベラルな政党に変貌を遂げます。私が物心ついたころには既に共和党は保守、民主党はリベラルというイメージが確立していましたから、一世紀を経ずして完全に逆転したわけです。今やニューヨーク州、ニューイングランド、カリフォルニア州は民主党が圧倒的に強く、南部は共和党の牙城と化しています。

これはアメリカが建国以来「自由」を標榜する国家であり、共産主義や社会主義が根付く素地がなかったことが影響していると考えます。つまり所謂イデオロギーが選挙の争点になったことはなく、掲げる政策は大同小異にならざるを得ない。それゆえ自党のアイデンティティーを保つための試行錯誤を繰り返し、紆余曲折を経た結果だと。それにしても見事なまでの逆転現象で、政治史上他に類を見ないと思います。

「アメリカ史上最高の大統領は誰か?」という世論調査ではリンカーンを推す声が圧倒的なようで、これには私も全面的に賛成です。強力なリーダーシップ、確固たる信念と揺るぎない自信、困難に怯まず立ち向かう勇気と類稀な決断力と指導者に必要な資質を全て備えており異論はありません。さらに彼の場合100万近いともいわれる犠牲者を出した内戦の指導者ですから、後年歴史的な評価が覆ってもおかしくはないです。内戦に勝利して絶対的名声を手にしながら死後屈辱的な形で貶められたオリヴァー・クロムウェルの例もあります。にも拘らずリンカーンを多くの同胞を死に追いやった強権的政治家などと批判する声は皆無に等しいです。これは彼が成し遂げた事績が如何に難しく尊いことだったかを示しており、また全てのアメリカ国民がそれを理解しているということでしょう。他には初代大統領ジョージ・ワシントンと第二次世界大戦を勝利に導いたフランクリン・ルーズヴェルトの評価が総じて高いようです。

ワシントンは大統領を2期務めたにも拘らず、大した事績を残していません。「建国の父」とされる人物は彼以外にも多数いますが、初代大統領選出に当たって対抗馬は事実上皆無でした。これは彼が独立戦争を勝ち抜いた立役者であり、その実績と存在感が一頭地を抜いていたことの証明です。つまり他の誰もが畏敬の念を抱くカリスマだったからこそ、産声を上げたばかりで基盤の確立していない合衆国の精神的支柱として束ね得たのだと。この点こそ時代が移っても尊敬を集め続ける要因だと思います。

ルーズヴェルトには老練な政治家という印象があります。彼が掲げたニューディール政策は戦争による特需でアメリカ経済が飛躍的に拡大したため正しかったのかは判然とせず、評価は分かれています。しかし彼の指導の下アメリカは勝利し、戦後西側陣営随一の超大国として君臨する地歩を固めたのは厳然たる事実であり、日米開戦に至る経緯をつぶさにたどると彼の周到かつ巧妙な戦略が見て取れます。私は「真珠湾攻撃陰謀説」には与しませんが、ルーズヴェルトにとっては渡りに船というより待ちに待った天佑だったでしょう。ニューディール政策によって回復傾向にあったアメリカ経済は1938年には腰折れし、彼自身がその効果に確信を持てなくなっていた可能性はあります。戦争になれば軍事支出が著しく増大して不況を一気に克服できるのは目に見えていますから、この段階で彼の腹は決まっていたでしょう。ただ大統領就任以前から、孤立主義が根強い世論を慮って「欧州の戦争に若者を送ることはない」と明言していた手前、それを反故にするには全国民が納得する大義名分が必要でした。そこで事あるごとにドイツと日本の膨張路線に警鐘を鳴らして徐々に啓蒙し、巧みに世論の誘導を図りながら日本に対しては敢えて態度を硬化させて追い込み、先制攻撃に踏み切らせることによって自衛のための戦争という確固たる理由づけを得たわけです。日米開戦後にドイツがアメリカに宣戦布告したことによって彼の思惑は成就します。また、建国以来の不文律を破って4選まで果たした政治力も見事です。いくら戦時下という状況であっても相当な反発は予想でき、コンセンサスを築くのは容易ではない筈ですが、その指導力が卓抜していたことの現れでしょう。

3人に共通するのは強いリーダーということですね。この辺はアメリカの国民性を如実に反映している気がします。強さにもいろいろありますが、ドナルド・トランプのように強気なだけではリーダーに相応しくないのは言うまでもないことです。

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Posted by hiro