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比肩するものがない加藤越前

6月18日は加藤剛さんの命日です。私は加藤さんが日本史上でも屈指の二枚目俳優だったと考えています。その美しく整いながらも決して中性的ではなく凛々しい面立ちは、同性の目からも見惚れてしまうほどでした。

加藤さんの代名詞と言えば『大岡越前』ですね。物心がつくころにスタートしたこの時代劇は『水戸黄門』と並んで勧善懲悪ものを代表するもので、祖父母が好きだったことから一緒に見ていました(今考えるとどちらもTBS制作というのも驚きですが)
現在まで受け継がれる清廉潔白で正義感に溢れ、庶民の味方で家族思いという大岡忠相のイメージは加藤さんが確立したものと言って差し支えないでしょう。これほどうってつけのハマり役はないのではないでしょうか。完全無欠かと思えるような人物を美男が演じても鼻持ちならないところが全くない。これはルックスに加えて内面から滲み出る人格が、視聴者に「大岡越前は実際にこのような人物だった」と信じ込ませるに足る説得力を持って共感を呼び起こしたのだと考えます。その後数多の俳優が越前を演じていますが、太刀打ちできた例はないですね。

実際、ちょっと浮世離れしているかと思えるほどの人格者だったようで、長男諒さんは「父は大岡越前そのものだった」と証言しているほどです。加藤家が名家で豪農だったことを考えると何不自由なく育ったはずですが、ボンボンにありがちな浮ついた部分が全くないのは素晴らしいですね。ゴシップも皆無でしたし。きっと忠相役は違和感なく地のままで行けたのでしょうね。

また、この人ほど悪役が似合わない俳優もいないでしょう。差し詰めハリウッドで言えばジェイムス・ステュワートくらいでしょうか。裕福な家庭で育ちながらスターになってもゴシップに無縁という点も共通しています。個人的に強く印象に残っているのは平将門を演じた1976年のNHK大河ドラマ『風と雲と虹と』ですが、歴史上将門は朝廷に反旗を翻した謀反人であることは疑いない事実です。関東には「将門伝説」が多く残り、彼が民衆に慕われていたことを示唆するとはいえ本来悪人として描かれるべき人物です。もちろん『大岡越前』のイメージがあるのでそのような脚本はあり得ないと推測はできても、あまりに聖人君子的な将門像になるのも如何なものかという心配がありました。しかしそれは全くの杞憂でした。武勇に優れ義に篤く、不正を憎み民とともに生きるという清廉潔白さは、将門が本当にそのような人物だったと信じさせるに十分な迫力と説得力を静謐さの中に醸し出して違和感なく魅了されました。実際の将門は清濁を併せ持っていたと考えてはいますが、将門の人物像を世間一般に確立したのも加藤さんだったでしょうね。

他にも『上意討ち 拝領妻始末』や『孤臣 お命守り申し候』(ともにテレビ東京)など、地で行くような役柄では他の追随を許さないハマりようです。善人から悪人まで様々な役を演じ分ける俳優も見事だとは思いますが、加藤さんの存在は極めて稀有で特異なものであり、所謂演技の範疇を超越していたとも言える気がします。今後このような俳優は二度と現れないかもしれません。

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Posted by hiro