シェーン
『荒野の決闘』を上回る、私が西部劇で最も好きな作品が『シェーン』です。ラストシーンは余りにも有名ですが、この作品は開拓者の日常がより克明に描かれていますね。
ここでのライカー一家は『荒野の決闘』でのクラントン一家に相当する存在で明らかに悪役ですが、ライカーとスターレットの対話においてそれぞれに言い分があり、一概にそうとも言い切れない問題であるということが示唆されていますね。開拓時代の西部では善悪は表裏一体のもので、問題解決の手段は主に暴力であったということでしょう。
主人公が想い人のいる女性に淡い恋心を抱くという面でも両作品は共通していますね。愛するドク・ホリデイを追いかけて西部までやってきたクレメンタイン。そのドクを失って去ることを決めた彼女を、殺伐とした西部に居てはいけない人と考えて引き止めなかったワイアット・アープ。ライカーとの対決に向かおうとするスターレットを壮絶な乱闘の末拳銃で殴ってまで制し、自分が引き受けることで彼の妻マリアンへの思いを断ち切ったシェーン。どちらも男ですよね。
それにしてもアラン・ラッドのシェーンは一世一代の当たり役です。過去について一切語らず彼の前半生は謎のままですが、もしジョン・ウェインやバート・ランカスターでは存在感がありすぎて如何にも只者ではないというオーラが出過ぎてしまいます。ヘンリー・フォンダかグレゴリー・ペックなら何とかいけそうですが長身すぎます。小柄でみすぼらしく見えるラッドが適任だったでしょう。
シェーンの前半生はどのようなものだったのでしょう。確実なのは人を殺したことがあるということです。最後に対決したジャック・ウィルソンとのやり取りから察するに、ウィルソンはシェーンを知らなかったと思われます。このことからシェーンは西部に名の知れ渡ったガンマンではなかったと想像できます。人間的にも根っからの悪党ではないですから、何らかの事情で争いに巻き込まれてやむを得ず人を撃ち殺してお尋ね者になり、各地を流れては腕を買われて酒場の用心棒か何かになって仕事柄さらに何人か殺すことになった。そんな人生に嫌気がさして彷徨ううちにスターレット一家と出会った。そんなところではないでしょうか。
早撃ちウィルソンに勝ったシェーンがその後どうなったか? 架空の人物ですから想像次第ですよね。私としては彼の腕と性格からいって保安官に向いているのではないかと… どこかでそんな機会に巡り合い、非業の死を迎えることはなかったと思いたいです。
また彼を慕うジョーイ少年のその後も気になります。彼にとってのシェーンが永遠のヒーローであり続けたことは想像に難くありません。時代設定は南北戦争の記憶がまだ新しい頃のワイオミング州ですから、アープが生きた時代と大差ないはずです。原住民との軋轢はまだまだ続き、さらにはホームステッド法の成立によって流入した農夫や牧夫と在来の大牧場主との対立も深まっていく。そんな世相ではシェーンの願いに反して銃に頼る人生を送ったのではないかという気がしてなりません。多感な時期に大きな影響を受けると、それを払拭するのは容易ではないですからね。彼を演じたブランドン・デワイルドが若くして交通事故で亡くなっていることも不吉を暗示するかのようです。
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