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映画音楽のありかた

7月21日はアメリカの作曲家ジェリー・ゴールドスミスの命日です。映画音楽の大家ですが、今となっては同時代のジョン・ウィリアムスに比べて知名度は大きく劣るのは事実でしょう。しかし私の少年時代には映画音楽のコンポーザーとして数々の名作・話題作にかかわる第一人者でした。少なくとも1970年代にはウィリアムスと互角以上の存在だった印象があります。ゴールドスミスという珍しくも覚えやすい姓だったことも影響したかもしれません。特に記憶に残るのが『パピヨン』と『パットン大戦車軍団』ですね。

彼の素晴らしい点は、劇伴に徹して音楽が独り歩きせず、押し付けがましいところが全くないことでしょう。近年のハリウッド映画はCGや特撮の多用によってただでさえ派手で大仰な演出が目立つのみならず、音楽も主張が強すぎて煩わしく感じる場面が多いんですよね。つまり不必要と思われる場面にも挿入され、かえって雰囲気を壊すということです。劇中世界の外で流れる所謂アウトの音はストーリーに対して明らかにフィクションですから、ない方が効果的というケースも多いと思われます。ウィリアムスもそうですが、特にゴールドスミスの場合その場面に音楽が必要かどうかの判断が適切で煩わしいことがなく、その点で近年の傾向とは一線を画しています。

例えば『ジャッカルの日』の音楽を手掛けたジョルジュ・ドルリューはフランソワ・トリュフォー作品に欠かせない巨匠ですが、この作品での音楽はオープニングとエンディングに限られ本編中は皆無です。しかし、それ故の静謐さが緊張感を増長してサスペンス性を極限まで高めています。これに対してリメイクとされる『ジャッカル』はストーリーも冗長で演出も派手、音楽も押しつけがましく似ても似つかない仰々しいアクション映画に成り下がってリアリティーさが希薄な作品でした。まあリメイクというよりオリジナルにインスパイアされて現代風にアレンジしたということなのでしょうが、そうであるなら主人公にジャッカルの名を与えないでほしかったですね。リメイクならばオリジナルと比較されるのは当然で、これほど異質の作品に仕上げるならば違う名で事足りるでしょう。オリジナルが佳作なだけに失望感が強かったですね。まあリメイクがオリジナルを超えること自体稀ですが…
また実際にジャッカルのような一匹狼の殺し屋がいるとするならば、『ジャッカルの日』におけるジャッカルのほうが遥かに実在の可能性を感じさせるキャラクターです。小柄で細身ながらも鍛え上げられた肉体を持ついっぽう、パッと見では育ちの良い優男にしか見えません。しかし、その綿密な計画性からは極めて高い知性を感じさせながら、目的のためには手段を選ばぬ冷酷さを備えています。また素手で相手を一撃で死に至らしめるテクニックからは、狙撃だけでなく格闘術にも長けていたことが示唆されており、まさに殺しのプロとしての凄味が伝わってきます。ジャッカルを演じたエドワード・フォックス一世一代の当たり役でしょう。

年齢を重ねると「昔のほうが良かった」という憧憬が世代にかかわらずあるようですが、これは単なるノスタルジーではないと考えます。時代の変化で向上したのは利便性のみで人間のスキルはそれに反比例して下がっていると感じられるのです。映画だけでなくあらゆる分野においてです。AIの進化に伴い今後その傾向には拍車がかかることでしょう。人間社会の向かう先がどのようなものなのか、非常に不安を感じます。

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Posted by hiro