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堕ちたニタニー・ライオン

1787年12月12日、ペンシルベニア州が合衆国憲法を批准してアメリカ2番目の州となりました。ニューヨーク州に隣接し、フィラデルフィアとピッツバーグという大都市を抱えるペンシルベニアは、人口全米5位で大きな経済規模を持つ州です。また近年では大統領選の趨勢を左右する重要州として、日本でも馴染みがあると思います。

個人的にはペンシルベニア州と言えば、ペンシルベニア州大なんですよね。パブリック・アイビーの一つに数えられ、特に工学分野における評価が高いこの州立大学は、アメリカでは一般に「ペン・ステート」と呼び慣わされて高い知名度を誇ります。私がアメリカンフットボールに出会った頃、当時関西学院大ヘッドコーチだった「プロフェッサー・ケン」武田建さんが解説を務めていた『カレッジフットボール in USA』にペン州大が登場する機会が非常に多かったことから、思い出深い大学なのです。

現在はビッグ10カンファレンスに所属していますが当時は独立校であり、東部を代表する強豪でした。1966年からヘッドコーチを務める名将ジョー・パターノの指揮のもと全米王座を2度獲得しています。ただ、この時代の東部には独立校が多く、最大のライバルはピッツバーグ大でしたが、これに続くボストン・カレッジとシラキュース大はリクルート力で両校に劣っており、食い込むのは困難でした。つまり、取りこぼしがない限りピッツバーグ大との直接対決に勝てば、4大ボウルのいずれかに出場して王座に挑める可能性が高く、スケジュール的にはカンファレンス所属校よりも楽だった側面はあります。それでも全米屈指の強豪だったことは疑いない事実です。

ペン州大の校風は質実剛健そのもので、パターノ自身規律を非常に重んじるコーチでした。スタンドプレーを嫌い、ヘルメットにはプライズマークはおろか、ロゴもない白無地。ジャージにも選手名さえ入れないというオールドスタイルで、派手で自由奔放な選手が多いピッツバーグ大とは対照的です。文武両道を奨励し、部員の卒業率が非常に高いことも知られていました。カレッジフットボール界の生きる伝説とまで称された彼の名声は、ある事件によって地に堕ちることになります。

それは、彼のアシスタントコーチが長年に渡って少年への性的虐待を繰り返していたことが発覚、パターノがこれを積極的に隠蔽しようとした事実が立証されたことで、ペン州大フットボールチームは非常に重い制裁を科せられることになったというものです。さらに事件を知り得た以降に上げたとされる111勝を無効にされるというオマケまでつきました。NCAAによる制裁を受けた大学は過去にもありますが、そのほとんどはリクルーティングに関する重大な規約違反が理由(SMUやUSCなど)で、これほど遡って勝ち星まで抹消された例は記憶にありません。道義的責任の大きさを、NCAAが非常に重く受け止めたのがわかります。

それにしても、事件に対するパターノの対応は全く理解に苦しみますよね。隠蔽を図った後、結果として明るみに出たならば、受けるダメージは比較にならないほど大きいということくらい誰でもわかりそうなものですが…85歳の当時でも現役だった彼は大学から解任され、数か月を経ずして病死します。ペン州大一筋に通算409勝(制裁措置前)を上げ、NFLからの誘いも断り続けた彼の人生最晩年に犯した判断ミスが、自身の健康状態に重大な悪影響を及ぼしたことは容易に想像できます。時代が変化しても名誉回復は望めないですからね。同じ轍を踏まないようにしたいものです。

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