まだお迎えは早いです
そろそろ陽が沈もうとしているが、父は布団に寝たままだ。血色がよく見えるのは、熱でもあるせいなのか。しかし苦しんでいる風ではない。
「ただいま」
階下から声が聞こえた。母だ。もう退院したのかと驚いて迎えに行こうとすると、早くも階段を上ってきた。
「随分良くなったじゃないか」
「そうなのよ」
膝が痛くてまともに歩くことさえ難儀だった母が、階段を一人で上ってくるとは信じられないほどの改善だ。ややびっこを引きながらも部屋に入って畳に座ると、嬉々としながらズボンをめくって私に見せた。
「ホラホラ、凄いでしょう」
本当だ。いびつにねじ曲がっていた左脚がほとんど真っ直ぐになっている。何より痛みがなくなったのが嬉しいようだ。それはそうだろう。脚が悪いせいで大変な目にも遭ってきたから、私としても気苦労が減る。これからはきっといいことばかりだよと自分自身にも言い聞かせる私だった。
しかし母は布団にくるまっている父に見向きもしない。まるで存在すら把握していないかのようだ。知ってか知らずか、父は相変わらず目を覚まさない。
実は、先日母が尻餅をついて骨折し入院しています。以前には転倒して後頭部を打ち、クモ膜下出血と診断されたこともありました。幸い後遺症もなく回復したものの、どちらも脚が原因なのでまたかという感じです。今回はリハビリの具合如何で車椅子生活になる可能性がありますが、かえってそのほうが良いのかもしれません。少なくとも夢が現実になることはないでしょう。
気になるのは、私が小学生の時に他界した父が登場したことなんですよね。死別してから半世紀近く経ちますから、再会を待ち焦がれる父が呼びに来ているのではないかと… しかし、父には申し訳ないがそっちへやるわけにはいきません。諸事情あって私としては、まだまだ母に長生きしてもらわねばならないのです。夢の中で母には父の姿が見えていないようでしたから、とりあえずは諦めてくれたであろうと思っています。
骨粗鬆症治療薬の選択と使用法(改訂第2版) 骨折の連鎖を防ぐために [ 萩野浩 ]価格:4180円 (2024/2/25 19:13時点) 感想(0件) |
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません