歓喜のインディ500制覇
F1を離れたエディー・チーヴァーは主戦場をアメリカに移します。CART参戦です。チームは新興チップ・ガナッシ。オーバルコースには慣れが必要でしょうが、F1ドライバーでも屈指の市街地マイスターだった彼ならば、ロードコースで圧倒的な速さを見せてくれるものと期待していました。しかしマイケル・アンドレッティはじめ、こっちの畑にも速いヤツはいて思惑通りには進みませんでした。
2年目の1991年シーズン、その後長らくチップ・ガナッシを象徴することになる真紅のマシンで登場し、開幕戦ゴールドコーストでフロントローをゲットします。ここから本領発揮と思いきや、結局在籍3年で表彰台には登るものの真ん中には立てず… まるでF1時代をプレイバックしたかのようで、私としては欲求不満の年月です。
その後、一時レギュラーシートを失うこともありました。遅れてCARTに参戦したナイジェル・マンセルが、いきなりポールトゥウィン、初年度でシリーズチャンピオンに輝くのを忸怩たる思いで見ていました。同じウィリアムズ・ホンダで走ったら、少なくともモナコやデトロイトではマンセルより速いと真剣に考えていましたから…
先行きに関して半ば諦めかけていた95年、開幕から好走していました。チームはA・J・フォイト・エンタープライズ。インディのレジェンドが率いるチームです。とかく若手ドライバーと衝突するA・J御大ですが、すでにベテランの域にあるチーヴァーは彼と上手に付き合って行けたようです。黒一色のマシンが一目で彼と分かってカッコよかった! この頃にはオーバルでも独自の走りを体得し、壁に最も接近するドライバーとの評価が定まっていました。天才肌たる所以でしょうね。同時期に参戦していた松田秀士さんは
「彼の車幅感覚というんでしょうか、壁との距離感。これはもう抜群に上手いです。壁から1インチ位のところにピターッと車を寄せて… それは素晴らしいです」
と評していました。後にヒロ松下さんも同様のコメントをしています。
ナザレスではグリッド中団からスタートして着実に順位を上げ、レース中盤に首位浮上。大差をつけて独走状態に入ります。ようやく念願が叶うと祝杯を挙げるつもりでいたところ、何と残り僅かでガス欠… しかし私はこのレースを見ていて、次戦インディ500への期待が大きく膨らんだのです。これはいけるぞと。
迎えたインディ500。グリッドはやはり中団。スタート時のトラフィックはアクシデントが多いので、前にいればいるほど良いのは当然ですが、後方でなければ良しとしようとポジティブにグリーンフラッグを待ちました。その結果は… スタン・フォックスのスピンに巻き込まれ、チーヴァーの生死が心配になるほどの大クラッシュ。彼が自力でマシンから出てきたのを見て本当にホッとしましたが、グリッドがあと一つでも前だったら無傷だったかもしれず、なんでこうなるの? と愕然としました。悪い星の下に生まれたとは彼のことなのではないかと… スペアカーのないフォイトのチームは、モノコックに深刻なダメージを受けたレースカーでリスタートはできず、シーズンの残りも低迷してしまうのです。
その後CARTの分裂騒ぎに際してIRLに移籍、自らのチームを立ち上げます。そして98年のインディ500で待ちに待った瞬間が訪れるのです。ただ彼のレースキャリアを逐一知る私は、最後の最後までヒヤヒヤし通しで落ち着かなかったです。周回遅れと絡みはしないか、ホワイトフラッグが振られてもガス欠になりはしないか、なってもいいから抜かれずにチェッカーを受けてくれと…
狂喜しましたね、無事チェッカーフラッグを受けた時には。フォーミュラでの優勝はF2時代以来ですから実に19年ぶりです。それは私が映画『ポールポジション』で彼と出会って以来待ち焦がれていたものなのです。感無量とはまさにこのこと、20世紀最後の良い思い出をプレゼントしてくれました。
チーヴァーはその後グランプリマスターズにも参戦し、その最後を飾るシルバーストーンで優勝しました。雨で多くのドライバーがスピンを喫する中、危なげないマシンコントロールでぶっちぎった盤石のレースでした。キャリア最終盤で雨での強さを証明してくれたのです。これも嬉しかったですねえ。
何だか彼を見ていると世の親たちが、世話の焼ける子ほど可愛いというのがわかる気がします。もちろん私のほうが年下なので、そんなことを言う資格はないですが… まあ終わり良ければ全て良しと言いますからね。ぜひ私もそうありたいものです。
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