ギロチンは人道的
1793年10月16日、フランス王ルイ16世の妃マリー・アントワネットが処刑されました。悲運の王妃か悪女か評価が分かれる彼女ですが、私は悪女とは思いません。宮廷内での勢力争いや奢侈はつきものであり、彼女の場合余りにも度を過ぎているとは言えないと。寧ろ革命を控えた激動の時期にフランス王室に嫁いだこと自体が悲運であり、もし彼女が清廉潔白な女性だったとしても死は免れなかったでしょう。それでも彼女は恵まれていたほうです。何故ならギロチンによる斬首ですから苦しむことなくあの世に行けたはずですからね。
古来刑罰は見せしめの意味合いが強く、死刑も命を奪うこと自体よりもその過程、つまり如何に多大な苦痛を長く与えるかが重要でした。そのため残酷な処刑方法が考案され、そのバリエーションは実に多様です。中にはよくもまあこんなことを考えたものだと思うほど惨たらしいものもあり、斬首は速やかな死をもたらすことから比較的軽い罪或いは身分の高い者に行われていたのです。そうは言っても刀剣や斧を使用するわけですから当然執行人の技量が拙いと悲惨な状況になるわけです。
近代の幕開けとともに「人道」という概念が広まって酷刑は姿を消していき、斬首も執行人の技量に左右されない速やかで確実な刑具が求められた結果として登場したのがギロチンなのです。
ギロチンは特にフランス革命において数多の命を機械的に奪ったことで悪名高いですが、受刑者を苦しませず死を与えるという意味で私は歴史上もっとも人道的な処刑方法だと考えます。現在も日本で行われている絞首刑は、一瞬で受刑者が意識を失うよう体重を考慮してロープの長さを決めますが、人間の耐性には個人差があるはずで体重が同じ人間でも死に至る時間はバラツキがあって然るべきです。即死に至らない場合、受刑者は長時間苦しむことになります。ニュルンベルク裁判で死刑判決を受けたナチス指導者たちの執行後写真を見る限り、目や鼻から夥しく出血して表情には苦悶の跡が見られます。どう考えても人道的とは思えません。
アメリカで採用されていた電気椅子も、受刑者が予定通りに死なずに苦しむ例が頻発して殆ど使われなくなりました。薬殺も人によっては効かない場合があり、やはり耐性や体質の個人差に影響されます。これらに対してギロチンは一瞬で確実に頭部を切り離すので個人差は関わりありません。まず気管が切断され呼吸ができなくなります。胴体側の切断面には頑丈で重い刃が密着するので止血されますが、切り離された頭部からは急激かつ大量に出血するので血圧は急低下します。これだけでも意識を保っていられるとは思えません。
脳内に残留酸素があるので、酸素の供給が途絶えても数秒間は意識があるという意見があります。そうかもしれませんが、意識があるから痛みを感じるはずだとするのは早合点ではないでしょうか。皆さん鋭利な刃物でうっかり指をスパッと切ってしまった経験があると思いますが、痛みは切った瞬間でなく遅れてやってきますよね。正常な脳でも事態を把握して痛みを感じるまでにタイムラグがあるということです。また痛みの原因となった刺激を神経を介して脳に伝えるべき脊髄は、すでに脳と切り離されています。もし意識があっても痛みを感じる暇はないように思えます。
世界の潮流としては死刑廃止に向かっていますが、個人的には存続させるべきと考えています。「死刑になりたいから」という身勝手な理由で無関係な人を巻き込む輩を税金を使って生かしておくのは如何なものかと。早期に更生できて社会復帰が可能ならば、再生産労働としての意義はあるかもしれませんが難しいですよね。再犯者率は高いですし… ジレンマだらけの現代社会が抱える悩みの縮図がここにもありますが、氷山の一角に過ぎないことは言うまでもありません。
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