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ヒトラー最大の失策

ナチスの政権掌握後、ドイツの経済は急速に回復して大国に返り咲きました。アドルフ・ヒトラーが内政及び外交に辣腕を振るった結果と認めざるを得ません。ドイツ国民の目には彼が「全能の神」に映ったとしても不思議ではない荒療治を成功させたのですから… そんな彼が何故破滅への道を歩むことになったのか? 私が思うに最大のミステイクは独ソ不可侵条約の締結だったと考えます。

外交は一朝一夕に成るものではなく、虚々実々の駆け引きを繰り返した結果です。遠交近攻は基本的な戦略ですが、各国がそれぞれの思惑を持って動くと時として思いがけない事態が現出します。世界を驚愕させたこの条約締結は、その最たる例でしょう。しかしヨシフ・スターリンは同時に英仏との同盟も模索しているのです。

ヒトラーが反共・反ユダヤ・反スラヴであることは公然の事実ですから条約は一時的なものに過ぎず、何れ両国は衝突するという見方はあったはずです。しかし指導者というものは常に最悪の事態も想定して舵取りするものです。ポーランドをソ連と分割した後、ヒトラーは返す刀で西に向かうつもりであり、条約はその折後方の安全保障を目的とするものと解釈できますから、特にフランスを刺激することになります。従来ドイツにソ連に対する防波堤としての役割を期待して宥和的だったイギリスの世論も著しく硬化したことが、ドイツのポーランド侵攻に対して英仏が即刻宣戦布告する結果をもたらしました。

ヒトラーは英仏の参戦はないと高を括っていたようですが、これは余りに楽観的ですね。独ソ不可侵条約の締結で、英仏がドイツのポーランド侵攻を黙って見過ごす可能性はなくなったと思います。フランスはともかく決して望んではいなかったイギリスとの戦争も避けられなくなり、本来主眼であったはずの東方への伸長を棚上げせざるを得なくなったのです。

もし独ソ不可侵条約がなくともドイツはポーランドに侵攻したでしょう。ソ連がポーランド支援の名目で派兵すれば史実より早い独ソ戦となりますが、英仏は表向きドイツを非難しても介入せずに共倒れを望むでしょうね。この時点のドイツ軍は質量とも充実しておらず、大粛清の影響で弱体化したとはいえ圧倒的な物量を誇るソ連軍に苦戦して食い止められ、痛み分けの形で停戦するのではないでしょうか。落としどころはポーランドの東西分割、つまり史実と代り映えしない結果ですね。ただ大きな犠牲を双方払ってですから喜ぶのは英仏になります。

より可能性が高いのは、ソ連領内には入らないという言質を与えて参戦させないという選択肢です。ソ連は黙認する代わりにフィンランドとの国境問題に関して支持を取り付けて強硬な態度で臨むでしょうが、開戦すれば史実以上の惨敗を喫するでしょうね。ドイツは積極的に支援せず、領土的野心をいったん封印して軍備拡張に専念したいところです。英仏とは緊張状態にあるとはいえ開戦していませんから、殆ど全戦力を対ソ連に充てることができます。1941年の早い段階には準備を整え、雪解けを待って総攻撃をかけることになるでしょう。対フィンランドでも脆弱さを露呈したソ連軍は支えきれずにスターリンは打倒されます。

英仏はドイツの西進に備えて軍備を増強していましたが、ここに至ってアメリカを抱き込みにかかります。ヒトラーの台頭を危険視していたアメリカも単独でソ連を援助するわけにはいきませんでしたが、英仏がドイツと開戦した場合の参戦を確約します。ドイツの成功に勢いづいた日本の膨張路線は止まず、米英仏と日独の世界大戦勃発は時間の問題となり、いつドイツが西に向かうかが焦点になります。

ここで難しいのはヒトラーの膨張路線を危険視する見方が増える一方、欧州をコミュニストの脅威から守った救世主として称賛する風潮が起きると予測されることです。元来反共という点で米英独仏は一致しており、世論がナチスドイツを容認する方向に傾いた場合、余程のことがないと開戦に踏み切れなくなります。共通の敵がなくなるとどうなるかというと、新たな仮想敵国に備えることになるのが当然の帰結ですよね。ドイツにとっては米英仏ですが、米英仏にとってはドイツと日本ということです。日独は史実通り同盟関係にあるはずですから、日本の南下意欲をヒトラーが制御できるかどうかが鍵になるでしょうね。日本が米英仏と開戦すればドイツは否応なく参戦せざるを得なくなるので、それを避けるために日本の目をソ連崩壊後のシベリアに向かわせることを画策するのではないでしょうか? 一時的にアジアを日本のなすがままにしてもよし、もし日本が度を過ぎた行動に走って米英仏と事を構えることになったら日本を見限っても良いわけです。ヒトラーが有色人種をユダヤ人やスラヴ人同様劣等民族と見做していたのは明らかですから。アメリカを敵に回すことだけは細心の注意を払って避け、表沙汰にならぬよう東方生存圏の確立を進める。これができれば世界大戦に突入することなく、ナチスドイツは黄金時代を享受できたかもしれません。

しかしそれは暫時でしょうね。ヒトラーにそのような柔軟性があるとは思えず、その性格から成功に酔って自信過剰に陥り、破滅へと向かうでしょう。ドイツ国民がアーリア人としての誇りに目覚めた結果、求心力を保つために強気な姿勢を貫くでしょうね。英仏はともかくアメリカだけはナチスを決して許容しない筈ですから、もし北アメリカ以外の全てがドイツにひれ伏したとしてもアメリカは負けないと思います。多くのユダヤ人科学者がアメリカに亡命した事実は変わらず、核戦力で突出した存在になるのは明白です。

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近代

Posted by hiro