知恵泉だった平凡社
1931年11月25日、平凡社から『大百科事典』第一巻が刊行されました。後に『世界大百科事典』と名を変えたこの百科事典は『ブリタニカ国際大百科事典』を凌ぐ、日本で最もポピュラーな百科事典だったでしょう。
今では調べものをするには「ウィキペディア」で事足りてしまい、ガサの張る書籍の百科事典は無用の長物になってしまいましたが、ネットのない時代にはまさに知識の宝庫でした。小学生の時に父親が買ってくれた平凡社の『世界大百科事典』は知識欲が旺盛な少年だった私を瞬く間に虜にしてしまい、暇があれば巻頭から読み漁る(興味がある項目だけでしたが)毎日でした。程なく他界した父からの最後の贈り物になったこともあって、特別な思い入れがあります。
この百科事典からは単なる知識のみならず、様々な感化を受けました。例えばカラー図版ページに載っていたジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルの『泉』を初めて見たときにはハッとしたのをよく覚えています。男女の性差が存在することを知ってはいても、女体を見て美しいと感じたのは初めてでした。また美しさとともに何というか体の芯から湧き起こる得体の知れない高揚感を覚え、これは母親と一緒に入浴した時には感じなかったものです。つまり官能性ということでしょうね。私の思春期への扉を開いてくれたのが『泉』だったわけです。
また、やはり図版ページのポルトガルに、断崖の上に佇む小ぢんまりした集落の写真があって魅了されました。おぼろげな記憶では、絶海の孤島のようなロケーション(岬かもしれませんが)で、真っ青な空を背景に白い家々が立ち並び、中心には教会があったような気がします。何が琴線に触れたのかわかりませんが、それまでに印刷物の中で見たどんな風景よりも心に残り、それは今でも変わりません。その集落の名前を覚えていれば、検索して再会することができたかもしれないと思うと残念でなりません。もっとも、その姿をとどめていればの話ですが… さらに惜しむらくは、実家の建て替え時に処分することを了解してしまったことです。確かにかなり傷んでいましたし折り目や書き込みも多々あったので、それ自体は止むを得なかったにせよ、せめてそのページだけでも切り取っておけばよかったと。忙しさにかまけて忘れていたのが悔やまれます。後の祭りですね。
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