G-FTB5DFYZ60

ヘッダー

ドイツ勝利の可能性は?

歴史として第二次世界大戦を知る私たちは、アドルフ・ヒトラーがイギリスを屈服させることなくソ連侵攻に踏み切ったことでドイツが勝利する可能性は無くなったと分かっています。国力と資源に乏しいドイツが二正面作戦を遂行するのは無謀だからです。しかし当時の各国首脳や知識人たちは、ナチス支持者でなくともドイツがこのままソ連を打倒して欧州全土を制圧するのではと真剣に危惧していました。それほどドイツ軍の勢いと精強さには端倪すべからざるものがあったのです。

ドイツ軍が立案したバルバロッサ作戦は北方軍集団がレニングラード、中央軍集団がモスクワ、南方軍集団がウクライナに向かって総攻撃をかけるという壮大なものでしたが、例によって主目標が曖昧であったことで作戦の進行が遅延しました。確かに緒戦においてソ連野戦軍の多くを殲滅しましたが、これはドイツ軍が侵攻してくる兆候を把握していたにも拘らず、ヨシフ・スターリンが信じようとせずに前線部隊に周知しなかったことで完全な奇襲になったことが大きいですね。もちろん仮に臨戦態勢を整えていたにせよ、冬戦争で露呈した軍の弱体化を再建する途上の段階ですから一朝一夕にできるはずはなく、またソ連軍には防御戦のドクトリンが元来欠けていたので結果は大同小異だったでしょう。

作戦の失敗に大きく関わったのは、1941年4月に行われたユーゴスラビア侵攻です。ヒトラーがこれを優先したため作戦開始が一ヶ月遅れました。「冬将軍」の早い到来がドイツ軍の進撃を妨げたのは事実ですから、もしユーゴスラビア侵攻を棚上げした場合、ドイツ軍がモスクワに到達していた可能性は高いと思います。とは言え補給が非常に困難な状態で冬を迎える訳ですから、陥落させるには多大な出血を強いられるでしょう。レニングラードのように膠着してしまうかもしれません。

ドイツが戦争に勝つには、この段階でのモスクワ陥落が必須だったでしょう。やはり集中運用で兵力の分散を防ぎつつ兵站を容易にするべきだったと思います。他に目もくれずモスクワを落とせば、スターリン或いはその後継者はウラル方面に退いて態勢の立て直しを図るでしょうが、分断され指揮系統が麻痺したソ連軍は組織的抵抗能力を失って各個撃破されていく。カフカス方面や中央アジアのソ連邦構成諸国には民族主義が台頭して共産党支配打倒に立ち上がる可能性大です。バルト三国やウクライナでさえ民衆はドイツを解放軍として当初は歓迎したほどですからね。そうなればソ連領内はまさしくカオスな状況に陥り、容易に収拾はつかないでしょう。ヒトラーが軽々にスラブ民族絶滅を実行せず、一時的にせよ彼らを利用する柔軟性を持ち合わせていればソ連の崩壊は夢ではないですね。

広大なソ連を全て制圧するのは物理的に不可能ですが、ウラルまでは目指せます。その後カフカスとバルカン半島に向けて南下すればよいのです。イギリスはこれを阻めず北アフリカ戦線もドイツに大きく傾きます。まさに風前の灯火ですね。問題はアメリカの動きですが、ドイツの快進撃に背中を押される形で日本は対米開戦に踏み切ったでしょうから、すでに独米は戦争状態にあります。しかし直接干戈を交えている日本より対ドイツを優先するとは思えません。もしドイツが英本土上陸を志向した場合、徹底抗戦を主張するウィンストン・チャーチルを説得して疎開させるのではないかと。つまり亡命政権ということです。この場合、依然強力な英海軍を事実上傘下に加えることになり、来る大陸反攻に際して非常に大きな戦力になります。また、戦勝後の力関係を考えても英国の威信や影響力は地に堕ちてアメリカ1強状態になります。フランクリン・ルーズヴェルトなら考えそうです。

仮に宗主国のイギリスが降伏したとしても、カナダやオーストラリアが追随するとは思えません。地政学的にアメリカと対峙する選択はしないでしょう。インドは微妙ですが… 因みにここではイタリアの存在を完全に無視していますがイタリアは戦局に寄与するどころか寧ろ足手まといであり、ある段階でドイツに隷属する国家に成り下がるのは確かと考えるので触れません。

このシナリオでは欧州全土と北アフリカ、中東を抑えたドイツと日本が、アメリカ及び中国と雌雄を決することになりますかね。やはりアメリカの国力は頭抜けていますから、日本を片付けた後ドイツをじっくり料理するでしょう。他に先駆けて核兵器を開発したアメリカの勝利は疑いないと思います。

バルバロッサのプレリュード ドイツ軍奇襲成功の裏面・もうひとつの史実 マクシム・コロミーエツ、ミハイル・マカーロフ[共著]小松徳仁[訳]齋木伸生[監修] 大日本絵画価格:1,200円
(2022/9/14 14:50時点)
感想(0件)

近代

Posted by hiro