大空のサムライたち
小学生の頃、坂井三郎さんの『大空のサムライ』を読みました。血沸き肉躍るというやつですね。エースパイロットの自伝に接するのは初めてだったので興奮しました。坂井さんの著書は複数ありますが、後年事実誤認や誇張が多いと批判されたりもしました。撃墜スコアも当時は64とされていましたが、今では28とされています。記憶は時間の経過とともに薄れていくのは当然であり、決して意図したものではないと信じたいですね。何より単純に読み物として面白かったです。藤岡弘さん主演で映画化もされました。
坂井さん以外にも多くのエースパイロットが登場しますが、私が最も興味を覚えるのが太田敏夫一飛曹なんです。作中では坂井一飛曹、西沢広義一飛曹とともに、ポートモレスビーの敵飛行場上空で3回連続編隊宙返りをやった(事実かどうかは微妙)以外見せ場はなく完全に脇役ですが、調べてみるとこの人の戦績が凄いんです。
彼は開戦初日から戦闘に参加していますが翌月負傷して療養、復帰後初の戦闘が3月3日ですから初撃墜はおそらくそれ以降と考えられます。それから戦死する10月21日までの僅か半年強の撃墜スコアは34(最後の戦闘による撃墜を含めると36)に及び、これは他の台南空エース全てを凌駕するハイペースで、その多くが米軍資料との照合で確実視されています。しかも彼の場合、空戦技量が抜群だったことから指揮官機の援護に回る二番機としての出撃が殆どだったにも拘らずです。アクが強い暴れん坊が多かった戦闘機乗りたちの中で、寡黙で目立つことを好まなかったそうですから、個人プレーに走らず冷静沈着で気を見るに敏な戦いぶりだったのではないでしょうか。最後の戦闘も米海兵隊二人のエースを向こうに回してのもので、その内テックス・ハミルトン機を撃墜しています。
もし彼が終戦まで生きながらえていたら、米軍パイロットに「ラバウルの魔王」と最も怖れられた西沢一飛曹とトップエースの座を争っていただろうと思うのです。知名度では劣っても、私は彼が日本陸海軍通じて最も優れた戦闘機パイロットの一人と確信しています。
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