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ヘッダー

汚れた英雄<クリーンな「ザ・キッド」

1998年9月8日、セントルイス・カーディナルスのマーク・マグワイアがMLBシーズン最多本塁打記録を37年ぶりに更新しました。サミー・ソサ(シカゴ・カブス)との本塁打王争いは熾烈を極め日本でも連日報道されていましたが、最終的に70本を記録したマグワイアが制しました。この年マグワイアの安打数は152ですから実に半数近くが本塁打だったことになり、これに匹敵するのは3年後に記録を更新するバリー・ボンズ(73/156)のみですね。しかし、この三人は十分な実績を持ちながら禁止薬物の使用で殿堂入りを果たしていません。ステロイド全盛時代にプレーした彼らは氷山の一角にすぎず、限りなく黒に近いと判定された選手たちが今後殿堂入りすることはないでしょうね。

禁止薬物を使用することでどの程度パフォーマンスが向上するかは個人差もあって定かでないですが、少なくとも打撃においてスイングスピードとパワーが増すのは確かでしょう。マグワイアやボンズのビルドアップされた体形を見ても一目瞭然ですよね。マグワイアは元々長距離打者ですが、デビュー時の体形をフットボールのポジションに例えるならQBクラスですが、全盛期は守備ライン並みです。中距離打者だったボンズもWR程度でしたが、本塁打が増えるにつれてLBの体格になっています。もちろん薬物に頼らずともビルドアップできるでしょうし、加齢によってスピードや敏捷性を失う代わりにパワーヒッターに変貌する例はありますが、やはり彼らの「大きくなりよう」は薬物使用を疑われて然るべきレベルでしょう。

彼らの対極に位置していたのがケン・グリフィー・ジュニアです。親子鷹として高校時代から将来を嘱望され、シアトル・マリナーズ入団後も順調にスーパースターへの階段を駆け上がっていった彼は典型的な5ツールプレーヤーであるとともにクリーンな選手であり、今に至るまで薬物使用を疑う声は皆無です。若くしてスターダムに上ってその性格もファンに愛され全黒人少年のアイコンとなったという点では、やはり5ツールプレーヤーであり史上最高の中堅手ウィリー・メイズ以来でしょう。

私は個人的にはグリフィーに記録更新をしてほしいと思っていましたし、可能性もあったと考えています。しかし70本となると厳しかったでしょうね。今後もクリーンな体で70本を越えるのは不可能なのではないでしょうか。

しかし通算本塁打数では彼こそがハンク・アーロンを抜くと期待していましたし、アメリカでもそう考える向きが多かったようです。年齢的にもマリナーズ時代のコンシステンシーから見ても当然だったでしょう。ところがシンシナティ・レッズ移籍後は度重なる怪我に悩まされて出場機会が激減、630本で現役を終えることになります。惜しいことです。マリナーズでの11年で398本、移籍後の11年で232本ですが、打数で考えると前者で14.6打数に1本、後者では17.1打数に1本なんですよね。ということは仮に出場機会が減らなければ、若干のパフォーマンス低下があっても109本上積みされ、さらに現役生活が続いた可能性を考慮すると完全に射程圏内に捉えていたことになります。

それでも彼がその時代最も華のある野球選手だったことは間違いないでしょう。日米野球でも度々プレーしましたが、グラウンドに現れただけで自ずと視線を集めて一挙手一投足全てが絵になる、こんな選手にはちょっとお目にかかれません。

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Posted by hiro