海道一から天下一へ その22
平岩康長から嫡男信康の出陣意向を聞いた徳川家康は、もってのほかとしてこれを禁じますが、続いて信康が無断で駿府を発ったという急報が入ると激怒、直ちに引き返すよう厳命します。しかしこのとき信康は、すでに北条氏直の陣に到着していたのです。
暗躍する義昭
上杉景勝の庇護下にある足利義昭の復権に向けた意欲は依然として衰えておらず、相変わらずの筆まめぶりを発揮して見境なくと言っていいほど諸勢力に援助を依頼していました。窮地に陥った伊達政宗が上杉を頼ったのも、義昭の存在が大きく影響していたのです。義昭としては景勝が家康との対決には及び腰であることがすでに明白なので、伊達との共闘を介して北条を巻き込み東国を反家康で固め、その旗頭になることを模索したのです。上杉に続いて北条も出陣したことで、義昭は自らの構想が実現への一歩を踏み出したと自信を深め、いっそう精力的に動くことになります。
景勝の当惑
しかし景勝の思惑は、そこまで踏み込んだものではありませんでした。最上に奪われていた庄内奪還は既定路線でしたが、それ以上戦線を拡大するつもりはなかったのです。何より西国を平定した家康の実力は恐るべきものであり、また舅となった家康と事を構えようとは考えていませんでした。もちろん中央の政局から距離を置き、領国経営に専念していた裏には捲土重来を期す野望があるにせよ、現状を鑑みるに家康には「時」が味方しており、今は動くべきでないと判断していたのです。時節が到来すれば義昭の利用価値は非常に大きいものになるはずですが、しきりに策謀をめぐらす彼の存在は両刃の剣であるという予測された事実が確たるものになって景勝はその処遇に悩むようになります。
信康の意欲
氏直の陣に入った信康は大軍を擁しながら動かない戦況を見て業を煮やし、半数を佐竹の本拠太田城に向かわせるよう進言します。筑波山の佐竹軍がこれを追うようならば、残り半数で後方から襲い殲滅するという積極策でした。氏直はこれに心を動かされますが、氏直の叔父氏照は反対します。いくら兄氏政の婿とはいえ、呼ばれもしないのに突然現れ口を出す信康に不快感を示したのです。迂闊に部外者の献策を採用して失敗でもすれば北条の威信にかかわりますし、また信康の身に万が一のことがあれば家康との関係が大きく損なわれるのは間違いありません。信康の武勇を知る氏直は、これを生かさない手はないと思いながらもあらぬ事態を恐れて自重せざるを得ませんでした。その後到着した平岩親吉が信康を抑えるであろうとはいえ短気な信康が思いがけない行動に出ないとも限らず、陣中に爆弾を抱えることになった氏真は、かえって動きを制限されることになったのです。
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