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巨星堕つ

仲代達矢さんが逝去されました。遠からずこの日がやってくると覚悟してはいたものの、現実のものとなると非常に寂しく残念で大きな喪失感に包まれます。

私が最も尊敬する俳優である仲代さんは、その長いキャリアにおいて演じた役柄も多彩ですが、やはり真骨頂は時代劇だったでしょうね。とくに武士を演じた際の佇まい、所作の見事さは特筆すべきものです。殺陣も軽妙な刀捌きを見せる所謂チャンバラには程遠く、甲冑を纏った状態での戦いを前提とした介者剣術の遺風を残す古武術を彷彿させる重厚で軽薄さのない地に足のついたものでした。さらに素晴らしかったのは走り方ですね。重心低く両腕を腰に置いたまま振らずに極力上体を捻じらせない腰の据わり方は、ナンバ走りの実像はこうだったのではと思わせるほど板につき説得力のあるものでした。

また眼力も大きな魅力でしたね。「目でものを言う」はよく使われる表現ですが、これほど体現した人はいないでしょう。射すくめるような鋭い眼光が印象的な『椿三十郎』の室戸半兵衛はまさに眼力ですが、弱きものを見つめる慈愛に満ちた眼、心底を気取られてはならないながらも胸中を酌んでほしいという相克を訴えかけるような何ともいえない切なく物憂げな眼などは様々な作品で印象的で、同一人物とは思えないほどです。

無名塾を主宰して後進を育てたことも大きな業績ですね。大好きな役所広司さん、若村麻由美さんも無名塾出身ですが、それは後年知ったことであり最初から認知していたわけではありません。つまり偶然なのですが、偶然と言い切れない必然性を感じるんですよね。それは演じることにすべてを捧げる求道者的姿勢を師から確実に受け継いでいるということにあります。もちろん二人のデビュー当初からそれを感じ取っていたわけではなく、キャリアを重ねるにつれ伝わってきたことですが、二人には一目で魅了された事実を考えると私の琴線に触れる何かあったのは間違いないのです。触れた琴線が無名塾での修行で培われたものにあったのだということを知ったとき、難解なパズルが解けたような晴れやかな気分になったことを覚えています。

トーク番組などで大物俳優が最近の若手俳優について意見を聞かれると、演技が自然で素晴らしい云々という趣旨の発言を多く耳にします。これは逆説的に演技などしていないという意味に聞こえるんですよね。役作りに励むのはどんな俳優も同じで一流も二流も三流もないでしょう。それを越える修練を重ねずともアイドルや芸人が人気俳優になってしまう近年の風潮に対する皮肉と諦念が込められているような気がするのです。俳優を生業以上の「道」とする仲代さんにしてみれば、喜ぶべきこととは思えませんよね。そういう時代と言えばそれまでですが、役所さんにしても若村さんにしてもトーク番組に出演することはあってもバラエティーには出ないあたり、師の矜持が脈々と生きていると感じます。

それにしても失ったものは大きいですね。今後仲代さんのような俳優は現れないでしょう。できれば役所さんに新たな無名塾を立ち上げてほしいものです。日本の演劇界、とくに時代劇をこれ以上陳腐なものにしないために… 難しいかな?

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Posted by hiro