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ミスター・ヨーロッパ

2022年5月23日

私が今でも最も好きなサッカープレーヤーが「ミスター・ヨーロッパ」カールハインツ・ルンメニゲです。

中高生の頃、海外のサッカーに触れる機会といえば、大きな大会を除けば土曜夕方の『三菱ダイヤモンドサッカー』くらいでした。後のIOC理事にして日本サッカー協会会長岡野俊一郎さんと金子勝彦アナの名コンビで欧州のサッカー試合を放送していたのですが、ほとんどがブンデスリーガかイングランド1部(現在のプレミア)でした。当時のイングランドサッカーは、ひたすらロングボールをゴール前に蹴り込み点で合わせるという大味なもので、私は西ドイツの緻密で洗練されたサッカーに魅力を感じていたのです。

70年代のブンデスリーガは疑いなく世界最高峰でしたが「皇帝」フランツ・ベッケンバウアーがアメリカに渡るなどして西ドイツは新たなスターを欲していました。
当初はゲルト・ミュラーの後継者として期待されたクラウス・フィッシャーやディーター・ミュラーが有力候補でしたが、彼らを押しのけるように超新星がバイエルンに登場します。それがルンメニゲです。

当時のルンメニゲはピュアなウインガーでした。疾風の如くスピードに乗ったドリブルが最大の武器で、一人では絶対止められない。本人曰く「100mは10秒台で走った」とのことなので所謂スプリント力も高かったのですが、いちばん凄かったのは爆発的な加速なんですよ。それも最初の二歩三歩の。私が最も好きだったのは、ディフェンダーを背にしてボールキープしながら上半身のフェイントだけで一気に抜き去ってしまうプレーです。松本育夫さんが「上体の復元力」と表現して「相手と正対して抜くのは誰でもやるが、背を向けたままというのはやはりルンメニゲ」と評していました。

欧州選手権を制し、2年連続でバロンドールを獲得した頃から「ミスター・ヨーロッパ」の呼称が定着します。
これはその時点でのヨーロッパのベストプレーヤーを指すものではなくルンメニゲ個人に与えられたもので、現在もそれは変わっていません。彼の絶頂期に当たるこの頃の西ドイツ代表のサッカーは、本当に素晴らしかったなあ。

ところがその後、彼は度重なる怪我に悩まされるようになりますが、並行してプレーの幅を広げて「10番」的な役割も担うようになります。全盛期のスピードと切れ味を失わずに剛柔合わせ持ったオールラウンダーに進化していくのです。

80年代初頭、世界のベストプレーヤーはルンメニゲ、ディエゴ・マラドーナ、ジーコの3人と目されていましたが、ルンメニゲの評価が最も高かったと記憶しています。『サッカーマガジン』の82年W杯スペイン大会開幕直前レビューでも3人が表紙を飾りましたがセンターはルンメニゲで、「ミスター・ヨーロッパから世界の帝王になるのか」が注目されていました。

蓋を開けてみると、最大のライバルであるブラジルの好調さに比べて西ドイツは怪我人が多く、ルンメニゲ自身も膝の故障の影響でベストコンディションとは言えませんでした。予選リーグ終了時点ではブラジルが絶対的本命とみなされ、西ドイツは決勝進出さえ危ぶまれる状態でしたが、苦しい試合を何とかものにしてイタリアとの決勝に臨みます。しかしチームが全体的に出来が悪く完敗、得点でルンメニゲと並んでいたパオロ・ロッシにゴールを割られたために、得点王も逃してしまいました。

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その後ミッシェル・プラティニが台頭して3人の中に割って入り、「四天王」の時代になります。4年後のW杯メキシコ大会は、4人の内の誰かが栄冠を勝ち取るものと思われていました。ところがピッチに現れたルンメニゲを見て愕然としました。体が重く動きにキレもなく、全盛期には程遠いプレーぶりでした。チームとしてもコンディションが悪く、危ない試合を「ゲルマン魂」で乗り切って何とか決勝に駒を進めます。相手はマラドーナ率いるアルゼンチン。2点のビハインドからルンメニゲが決めた反撃の狼煙となるゴールに私は狂喜しました。おそらく最後となるW杯…勢いに乗って逆転だ!そうなれば有終の美を飾れると…夢は破れました。神様はルンメニゲではなくマラドーナを選んだのです。せめてもう1点取ってW杯での通算得点を二桁に乗せてほしかったなあ。

後世の評価ではマラドーナの後塵を拝しているのもやむを得ないとは思いますが、80年代初頭ルンメニゲは間違いなく世界のトップでした。ただ運に恵まれなかった…W杯で西ドイツは彼が代表入りする直前に優勝し、引退してすぐ優勝しているあたりも皮肉というか、何とも巡り合わせが悪い。やはり生まれ持ったものが足りなかったと言うべきでしょうか。金髪碧眼、いかにもドイツ人らしい精悍な風貌もカッコよかったです。

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Posted by hiro