至高の『マクベス』
8月18日はロマン・ポランスキーの誕生日です。『ローズマリーの赤ちゃん』や『チャイナタウン』『戦場のピアニスト』などで知られる映画監督ですね。その作品の根底に共通する暗さは、幼いころユダヤ人ゲットーに押し込められ迫害を受けた経験が影響しているとされます。いっぽうで未成年への性犯罪で逮捕されるなどのトラブルメーカーでもありました。世界的名声を得ている映画監督ならば、それがセクハラであると同時にパワハラでもあるのは自明の理です。ユダヤ系であったために迫害された身の上にもかかわらず、何故彼が弱者を虐待するような性的志向を持つに至ったのかわかりませんが、人間という生き物の複雑さを垣間見るような気がします。
私が最も好きなポランスキー作品は1971年の『マクベス』なんですよね。言わずと知れたウィリアム・シェイクスピアの戯曲を映画化したものですが、おそれく舞台では表現できないであろう残酷描写やオカルト的おぞましさがちりばめられ、ホラーやスリラーを得意としたポランスキーの面目躍如の感ありです。また華美を排したソリッドな色彩も、キリスト教化されているとはいえ完全には啓蒙されていない中世スコットランドに相応しいものになっています。
物語の発端となる魔女の予言にしても、ケルト文化に色濃く残されたシャーマニズム的民間信仰の名残でしょうし、思わず目を背けたくなるような魔女の醜さはポランスキーのデフォルメと思われます。バンクォーの亡霊もぎょっとさせるほど悲惨な風体でいきなり登場させたりと、観客が驚くのを楽しむかのようです。やはり彼にはサディストの面が強かったのではないかと思わせます。
私の印象に最も残っているのはマクベスが討ち取られるシーンです。斬り落とされた首が階段を転げ落ちて最後アップになるのですが、一瞬マクベスの腕が切り離された頭部の所在を確かめるかのような動きを見せるんですよね。実際には瞬時に脳からの指令を断たれた身体がそのような反応を示すか疑問ですが、非常に斬新な演出だなと感じて鮮烈に記憶しています。
また、予算の関係かどうかわかりませんが、この作品には大物俳優は出演していません。マクベスを演じたジョン・フィンチも無名で、その後もこれといった当たり役に恵まれずキャリアを終えています。しかし勇猛で武勇卓絶ながらも神経質で小心な面があるマクベスに見事なハマりようです。彼にとっては一世一代の演技だったことでしょう。
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