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スペインの英雄エル・シッド

1492年1月2日ナスル朝の首都グラナダが陥落、800年近くに及ぶレコンキスタ(国土回復運動)が完結しました。聖地エルサレム回復を目指した十字軍は結果的に失敗しましたが、広義の十字軍活動では最も顕著な成功例です。それにしても800年という途方もない時間をかけてのことで、様々な紆余曲折を経ています。キリスト教圏・イスラム教圏ともに一枚岩ではなく、各々内紛や勢力争いが頻発して足を引っ張り合った結果複雑怪奇に情勢が変化し、異教の勢力を抱き込んでの対立構図が出来上がったりもしています。現在イベリア半島の大半を領するスペインでは近年の世界的な右傾化に伴う民族主義の高まりで、カタルーニャやバスクの独立志向が取り沙汰されていますが、他の地方もそれぞれ異なる出自と文化を持つためスペイン人としてのアイデンティティーは程度の差はあれ希薄です。共通の敵であったムスリムを駆逐してカスティーリャ主導の統合がなされても、各々の帰属意識が薄まることなく今に至っているということですね。

そのためスペインの英雄といってもカスティーリャの偉人が、その他の地方でどのように評価されているかは微妙なところでアンケートの結果でもあれば知りたいところですが、やはりレコンキスタで活躍した人物ならば国民的支持があるものと考えられます。となると真っ先に思い浮かぶのはエル・シッドですね。

レコンキスタを題材とした作品はあまり多くはないですが、大作としてハリウッドで映画化された『エル・シド』の影響は大きいでしょう。戦傷によってすでに息絶えたシッドが愛馬に跨った状態で固定されて颯爽と出陣、彼の死を疑っていなかった敵軍を崩壊させると単騎海岸線を走り去って行くラストシーンには、子供だった私の胸を打つものがありました。脚本もほぼ史実に則って描かれており、卓越した武勇と清廉な人格を持ちながら、彼を懼れる王の不当な扱いにも決して忠誠心を失わない義人としてのシッドの生き様が、誇張のない等身大の人物像と受け入れることができます。これにはシッドを演じたチャールトン・ヘストンの功績が大でしょう。

古代や中世を舞台とする歴史大作は数多ありますが、ヘストンほどうってつけの俳優は古今東西問わずいないです。中でもシッド役は『ベン・ハー』のジュダ役と並んで他のキャスティングは考えられませんね。精悍な面貌と肉体美を持ちながら悪役が似合わないのは、ハリウッドスターでありながら離婚歴がなく堅実という私生活から滲み出るものだったのかもしれず、このあたりはタイプの違いはあってもジェイムス・ステュワートと通じるものがありそうです。

バレンシアをムスリムから奪回したシッドですが彼の死後程なくして失陥し、再びキリスト教徒の手に渡るのは100年以上経った1238年のことで、レコンキスタが完遂するまでにはさらに250年を要しています。その要因としてカスティーリャをはじめとするキリスト教諸王国が王位を単独で継承させず、諸王子に分割相続させる慣習があったことが大きいでしょう。強力な王が現れて盟主としてレコンキスタを主導する立場となっても、その版図が細分化されるうえ各々が勢力争いを始めるという歴史を諸王国それぞれが繰り返していたわけです。これではムスリムとの一進一退を打破するには、余程の傑物が一代で事業を完成でもしない限り無理ですね。シッドが早い段階で自立していたとしても、そこまで求めるのは酷でしょう。やはり歴史には必然というものがあり、イスラム勢力全体が拡大から退潮へと向かう時期を待たねばならなかったということです。ただしアレクサンドロス3世のような稀代のカリスマが現れていたら話は別ですが…

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中世

Posted by hiro