海道一から天下一へ その41
北条が小田原防衛の要として心血を注いだ山中城は結果的に何の役目も果たせず無力化されてしまいましたが、前田利家率いる北方軍の置かれた様相は、これとは全く異なるものでした。
猪俣邦憲の奮戦
北条氏邦は碓氷峠を扼して幕府軍を阻むことを小田原から命じられていましたが、それには飽き足らずより積極的な用兵を考えていました。望月城に幕府軍を引き付けておき自ら碓氷峠を越えて打って出て挟撃しようと目論んだのです。しかし利家は望月城を意に介さず関東入りを急ぎます。望月城を預かる猪俣邦憲は、これを氏邦に急報して出陣を促すと幕府軍を遅延させるべく動きます。真田昌幸に手痛い敗北を喫した責任を痛感していた邦憲は、頑なに自分を庇った氏邦に恩義を感じており、この戦いに対する意気込みには尋常でないものがあったのです。邦憲は寡兵をもって幕府軍の後尾にヒットエンドランを繰り返して手こずらせます。利家は小笠原貞慶に望月城の押えを命じますが、挑発に乗った貞慶が城に攻めかかって逆襲を受け打ち破られてしまいます。ここに至って利家は、小うるさい望月城を片付けることにします。未だ上杉景勝の動向がはっきりしないため兵力の分散は避けたかったのです。
望月城攻防戦
幕府軍は東の台地側から望月城に殺到しますが、邦憲はこれを予期していました。中山道を望む南側は急峻ながら台地側は緩やかな地形のため、東から引き返す形となった幕府軍があえて南に回る理由はないので、少ない兵力を台地側に集中させたのです。これはかなりの規模を誇る縄張りの全域を守るには寡兵すぎる現実から考えても理に適ったものでした。邦憲の奮戦に幕府軍の攻撃は思うに任せず容易に崩せません。城攻めに時間を費やしたくない利家が焦りを感じ始めた時、北条軍が碓氷峠を越えたとの報が入ります。望月城に手こずっている背後を突かれると面倒なことになります。そこで利家は真田昌幸に北条軍を阻止するよう急使を発するとともに、総攻撃を命じることになります。
動かぬ上杉
援軍要請を受けた氏邦は、上杉景勝に出陣を乞います。上杉の合力を疑っていなかった氏邦としては、景勝の出馬によって北信の真田昌幸は全力でこれに当たらずを得ないため、信濃に出ても背後を突かれる心配がなくなるからです。邦憲が持ち堪えている間に幕府軍に迫りたい氏邦は急行して佐久平に進出しますが、そこに届いたのは望月城が落ちたという知らせでした。氏邦は幕府軍が態勢を整えぬうちに急襲するべく西進を決めますが、真田軍が小諸に集結しているという報に愕然とします。景勝は動かなかったのです。このままでは退路を完全に断たれる事態を招くことになり、袋の鼠となります。氏邦は忸怩たる思いで上野への撤退を決断、戦略の見直しを迫られることになるのです。
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