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中部太平洋海戦

2023年10月1日

真珠湾攻撃マレー沖海戦によって航空主兵論の正しさが証明され、戦艦は時代遅れの無用の長物と化して活躍の場を失いました。しかし戦艦を中心とする艦隊決戦が行われていた可能性は少なからずあったと思いますが、これはもし真珠湾攻撃がなかったらという前提条件があります。

真珠湾攻撃を強硬に主張して実現させたのは連合艦隊司令長官山本五十六大将ですが、彼がその役職にあったからこそのことです。対米避戦論者として知られていた山本大将を右翼のテロから守るために米内光政海相が現場復帰させたとされていますが、実際に数々の脅迫を受けていたのは事実です。また海相が末次信正大将のような対米強硬派だったとしたら、予備役に編入されていた可能性すらあります。(1937年の林銑十郎内閣成立時に海相就任の要請を受諾したが反対があり、選ばれたのが米内中将でした) 連合艦隊司令長官が他の人物だった可能性は大いにあり、その場合誰であっても大胆不敵でリスクが極めて大きい作戦を発案し、軍令部の反対を押し切って実行することはできなかったでしょう。つまり開戦後も航空主兵論が勢いを増すことはなく、米艦隊を誘き出しての艦隊決戦を志向したことになります。

米海軍でも39年6月に承認されたレインボー・プランで日本近海での艦隊決戦を目的にしていますが、日本同様航空主兵論も頭をもたげており、40年7月に成立した両洋艦隊法で大和型に対抗する戦艦としてモンタナ級5隻を建造する一方で空母の増強にも乗り出し、開戦前の段階でエセックス級11隻を既に発注しています。このあたりは本気になったアメリカの底力を見る気がしますが、依然艦隊決戦志向だったことは日米変わりません。

真珠湾攻撃がないとすると、日本は当然南進に注力します。米領フィリピンに手を付けずに蘭印に向かうことはあり得ず対米開戦は不可避です。フランクリン・ルーズヴェルト大統領は開戦の決意を固めており、その口実を待ちわびていたのは明白ですから世論の動向がどうあれ宣戦布告したのは間違いないでしょう。ただアメリカとしては欧州戦線を優先する方針が固まっており太平洋でどのような戦略を用いるかが不透明ですが、少なくとも開戦早々日本近海に進出するとは思えません。仮に東南アジアから西太平洋までを日本が席巻して南方の資源を手中にしても、時間の経過とともに彼我の戦力差が開くのは明らかですから決戦を急いで万が一敗れることがあっては元も子もありませんからね。先ずはフィリピンの回復を目指すでしょう。そのためにはトラック泊地の日本海軍を何とかしなければなりませんが、太平洋艦隊は無傷です。陽動と戦意高揚を兼ねてドゥーリトル空襲を敢行したのではないでしょうか。これによって日本は米艦隊が本土に襲来する危険に備えねばならなくなります。

ここまで日本海軍は陸軍の南方制圧を支援することに専念し、大規模な作戦行動はインド洋での英東洋艦隊駆逐くらいです。長期化を恐れる政府は和平を模索するものの拒絶されて短期での決定的勝利を求めるようになります。戦勝に勢いづいた軍部も早期にアメリカを屈服させるための決戦を望み、そのための作戦が立案されます。本土から出撃する連合艦隊主力と、トラック泊地の別働隊による米太平洋艦隊の挟撃です。時期は戦艦「武蔵」の就役を待っての1942年秋になります。

主力部隊 空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「隼鷹」「飛鷹」
     戦艦「大和」「武蔵」「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「扶桑」「山城」

別動隊  空母「翔鶴」「瑞鶴」「龍驤」「瑞鳳」「祥鳳」
     戦艦「金剛」「榛名」「比叡」「霧島」

まさに連合艦隊の総力を結集した陣容です。まず主力部隊が出撃、迎撃に向かう米太平洋艦隊の背後に別働隊が急行して襲うというものです。日本本土からの大規模な艦隊出撃を潜水艦の報告で知った太平洋艦隊司令長官ハズバンド・キンメル大将は攻撃目標がハワイと判断、直ちにウィリアム・ハルジー中将に迎撃を命じます。ハルジーは低速の旧式戦艦群が足手まといになることを嫌い、空母「ヨークタウン」「エンタープライズ」「ホーネット」「ワスプ」に大和型と同世代の最新鋭戦艦「ノースカロライナ」「ワシントン」「サウスダコタ」「インディアナ」を帯同してミッドウェイ島方面に急行します。米艦隊の出撃を知ったトラック泊地の別働隊も行動を起こして中部太平洋は風雲急を告げる展開となるのです。

別働隊の出撃を知ったキンメルは、それがハワイ上陸を目指す敵の主力かと疑いますが、索敵の結果輸送船団を伴わないことを確認した後も攻撃目標が真珠湾である可能性を考慮し、空母「レキシントン」「サラトガ」戦艦「コロラド」「メリーランド」「ウェストバージニア」「テネシー」「カリフォルニア」「ペンシルベニア」「アリゾナ」「ネバダ」「オクラホマ」をロバート・ゴームリー中将に委ね近海に待機させます。

ハルジーは決戦海域をハワイとミッドウェイの中間と決めていました。空母艦載機の数で劣っても、両島の基地航空隊を合わせれば凌駕できるので、敵を何とかそこまで引き込みたいわけです。そのため先に戦闘想定海域に達して敵の接近を待つつもりでした。ところが北東に向かっていた日本海軍別動隊が北に変針したとの報告を受けて決断を迫られます。鈍足であるゴームリー艦隊の救援が間に合う確証はなく、このまま挟撃されると勝ち目はありません。残された方策はただ一つ、各個撃破です。ブルの異名を持つハルジーは果敢に敵主力部隊を求めて艦隊を北西に向けます。

最も早く敵を捉えたのはミッドウェイ基地のB-17爆撃機でした。ミッドウェイ西方約300kmに日本艦隊を発見したのです。ここから基地航空隊による空襲が行われますが、直掩の零戦に妨害されて悉く失敗します。ハルジーも報告を受けて攻撃隊を出すものの、零戦パイロットの練度は非常に高く殆どが撃墜されます。後手に回った日本側もようやくハルジー艦隊を発見、果敢な航空攻撃の応酬になります。米軍パイロットの勇敢さは目を見張るものでしたが、経験豊富な精鋭ばかりの零戦には歯が立たずになかなか投弾まで至りません。それでも「加賀」の飛行甲板に爆弾を命中させて使用不能に追い込みました。日本側も米艦隊に殺到しますが、空母が編隊を組んでいなかったことと各空母に戦艦が近接していたことで攻撃が分散、「ヨークタウン」を大破させるにとどまります。ここまでに接近しつつあった両軍の距離は、遂に米戦艦のレーダーが敵影を捕捉するまでに縮まり砲撃を開始しますが、「インディアナ」は魚雷攻撃によって浸水、大きく傾いて発射不可能になります。空母艦隊と距離を取っていた日本戦艦は味方空母周辺に巨大な水柱が立つのを確認するとすぐさま測距を開始、遠距離砲戦となります。

レーダー射撃の標的になったのは空母であり、後方に位置していた戦艦部隊は砲撃を受けずに米新鋭戦艦を撃ちまくったわけです。しかし「大和」「武蔵」は命中弾を得られず、活躍したのは旧式戦艦群でした。特に「長門」「陸奥」の砲撃精度は素晴らしく「ノースカロライナ」を航行不能に追い込み、「サウスダコタ」に至っては第二砲塔天蓋を貫通して炸裂した主砲弾が弾薬の誘爆を引き起こして轟沈してしまいます。日本側の損害も大きく、「蒼龍」には多数の41cm砲弾が命中し大火災を起こして航行不能、「隼鷹」も昇降機を直撃されて格納庫内で航空燃料に引火し爆沈しました。稼働機数が激減した米空母部隊は撤退を開始しますが、彼らの試練は終わっていませんでした。

ハルジーを救援すべく西へ向かったゴームリーですが、戦艦を置き去りにしてでも駆けつけるべきところをそうしませんでした。慎重な彼は旧式戦艦群を帯同しながら進んでいたのです。彼の艦載機が攻撃可能な位置に達する遥か以前に、最新鋭空母「翔鶴」「瑞鶴」と4隻の高速戦艦からなる日本の別働隊がハルジーに接近していたのです。

ハルジーが撤退を開始したことを知った別働隊指揮官近藤信竹中将は、すぐさま攻撃隊を発艦させます。最早ハルジーに成す術はなく「ホーネット」「ワスプ」が撃沈されます。残った「エンタープライズ」は僅かな機で捨て身の反撃に出ますが、一矢報いることは叶いませんでした。連合艦隊司令長官米内光政大将は日没を間近に攻撃の中止を決断、水雷戦隊に夜戦での残敵掃討を命じますが酸素魚雷の自爆によって更なる戦果を挙げることはできませんでした。

日本側は空母2隻を失いましたが、米空母3隻と戦艦2隻を撃沈して米太平洋艦隊に大打撃を与えます。特に空母艦載機と搭乗員の過半を失ったこと、新鋭戦艦が2隻も沈んだことに海軍中枢はショックを受けます。日本軍のハワイ上陸も現実味を帯び、太平洋艦隊司令部は一時サンディエゴに退避して再建を図るかもしれません。キンメルは更迭、後任には海軍省航海局長チェスター・ニミッツ少将が抜擢されて彼のもと本格的に航空主兵へと舵を切り捲土重来を期すことになります。

日本は勝利したとはいえ、ここから先は手詰まりです。仮にハワイを占領しても維持することさえ容易ではなく、それ以上進むのは兵站の限界を超えています。米本土上陸など絵空事でしかないのです。政府は有利な条件での和平を打診するものの、反日感情の高まったアメリカが受けるはずはなく頓挫します。連合軍のヨーロッパ反攻は棚上げされて第二次世界大戦の終結は史実より遅れたでしょうが、枢軸国側の敗北は必至だったと思います。やはりどう考えても勝てる戦争ではなかったということです。

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近代

Posted by hiro