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史上最高の宮本武蔵

役所広司さんの出世作が1983年のNHK大河ドラマ『徳川家康』での織田信長役だったことは広く知られています。衝撃的でした。これぞ待ちに待っていた正真正銘の信長だと感激し、登場を心待ちにして見ていたものです。ワイルドな面貌に刺すような鋭い眼光、逞しい体躯、雷鳴が轟くかのような良く通るバカでかい声と私が想像していた信長のイメージを完全に体現していました。「うつけ」と呼ばれた若き日は無論のこと、天下人に上り詰める以前の壮年期まではダントツのハマりようでした。金ヶ崎の退き口の回もカッコよかったなあ。

ただ、天下人になった壮年期以降を考えると高橋幸治さんも捨てがたいですね。三宝時所蔵の肖像画が高橋さんと目鼻立ちがそっくりなこともありますし、冷徹な表情の裏に隠された「狂気」のようなものを感じさせ、キレたら何をしでかすかわからない恐ろしさを醸し出していました。皆さんそれぞれに「最高の信長」がいらっしゃると思いますが、結局は好みの問題ですね。

しかし私が考える役所さん最高のハマり役は他にもあります。84年のNHK新大型時代劇『宮本武蔵』での武蔵役です。これはちょっと他の追随を許さないですね。私は巌流島の戦いよりも一連の吉岡一門との対決が好きですが、中でも一条寺下がり松は出色です。

役所さんの殺陣は非常にスピーディーですが、所謂「チャンバラ」とは違いますね。技巧的というよりは膂力と気迫で一撃のもと斬り倒していく感じで、このあたりは三船敏郎さんの殺陣にも共通する気がします。刀は長時間斬り結べば刃こぼれして使い物にならなくなりますし、相手が多人数であればなおさらです。武蔵もそれを見越して戦場想定域に予備の刀を数本突き立てていましたしね。やはり剣舞的な殺陣ではリアリティーに欠けると思うので、役所さんの殺陣は大好きです。そういえば後年演じた『三匹が斬る!』での千石は、薩摩出身で示現流の使い手という設定ですからピッタリですね。高橋英樹さんや松平健さんも刀捌きは非常に巧いですが、戦前の剣戟映画の流れをくむ「軽さ」を感じてしまうのです。

吉岡一門の追撃を振り切って命からがら窮地を切り抜けた場面も印象に残っています。暗闇の中、泥まみれで真っ黒になった全身から見開いた眼だけが異様に光り、妖気を漂わすかのような迫力でした。この目力も役所さんの大きな魅力ですよね。

また、佐々木小次郎を演じた中康次さんが見事にハマっていました。私はそれまで中さんのことを知らなかったのですが、191cmの長身とその美男ぶりが傲岸不遜さと相まって何とも鼻につき、小次郎のイメージそのものでした。つまり武蔵役、小次郎役ともに私としては右に出るものはないと今でも考えています。二人が橋上で初めて対面する場面もよく覚えています。それまで武蔵を見くびっていた感のある小次郎が、彼の長刀「物干竿」との間合いを武蔵が正確に見切って去って行ったことに驚き、その実力侮りがたしと認識するのです。巌流島での対決自体は他の映像作品と比べて際立ったものだったとは思いませんが、役所・中コンビは史上最高の武蔵・小次郎でしょう。これを上回るキャスティングはありえません。

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Posted by hiro