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娯楽時代劇の傑作『柳生一族の陰謀』

1月12日はアクション映画の巨匠深作欣二監督の命日です。深作さんと言えば、なんといっても『仁義なき戦い』シリーズですよね。それまでのヤクザを勧善懲悪の主人公とする任侠映画から、暴力団の赤裸々な実態を描く実録物への先駆けとなったあまりにも有名な作品で、私も大好きです。

しかし、一番好きな作品を挙げるとなると1978年の『柳生一族の陰謀』なんですよね。以前の記事「好きな邦画ランキング」でも5位にランクしました。徳川三代将軍位をめぐる暗闘を経て、将軍家光が首を落とされるという衝撃的な結末で締めくくるという史実とかけ離れた脚本ですが、そんなことはどうでもよくなるほど単純に物語として面白いです。時代劇ではあるが史劇ではないと割り切って見ることができれば、なんら違和感を感じません。ある意味『水戸黄門』や『大岡越前』と同列とも言えます。

とはいえ、これらの作品と違うのは主要な登場人物の多くが歴史上に大きな足跡を残していることです。にもかかわらず外連味なく史実を捻じ曲げていることには爽快感すら覚えます。歴史好きでなければ二代将軍秀忠の毒殺や土井大炊頭利勝の暗殺などは史実と誤解してしまうかもしれませんが、さすがに家光の横死を真に受けるとは思えませんから、このどんでん返しがよりインパクトを与えたのかもしれませんね。

私は重厚な時代劇が好きなので、史実とあまりにもかけ離れた作品は基本的に好きではありません。そういった作品には、ある種の軽薄さを感じてしまうのです。ところが『柳生一族の陰謀』は重厚さを失っていないんですよね。これに大きな役割を果たしたのが、柳生但馬守宗矩を演じた萬屋錦之介さんの存在でしょう。歌舞伎かと思えるほど大仰な台詞回しは他の出演者と比べて明らかに異質でありながら何故か浮いている感じはなく、むしろ作品を首尾一貫して引き締めている印象です。これこそキャスティングの妙でしょう。制作側が最初からそれを狙ったのかどうかは疑問ですが結果的に大成功だったのは疑いようがなく、もし但馬守役が萬屋さんでなかったとしたら、作品から受ける印象は全く違ったものになったことでしょう。

終始見どころ満載ですが、私が最も好きなのは柳生屋敷に丹波哲郎さん演じる小笠原玄信斎が潜入した場面です。但馬守に立ち合いを迫るも断られて千葉真一さん扮する十兵衛と斬り合うのですが、襖の裏に潜んだ十兵衛の気配を察して振り向きざまに渾身の一撃を加える玄信斎と左目を斬られながらも一太刀浴びせる十兵衛、しかもその顛末が、玄信斎が飛ぶように脱出した後切り裂かれた襖が崩れて初めて明らかになるという演出には痺れましたね。二人の手練れぶりを十二分に物語って余りある素晴らしさでした。

妄想好きの私が気になるのは、家光の首が本当に落ちていたら幕府はどうなっていたかです。もちろん幕閣は病死と公表して事実をもみ消そうと動くでしょうが、図らずも公になってしまった場合です。次回考察してみましょう。

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Posted by hiro