偉大な引き立て役、マンセル
1992年5月31日、記念すべき50回目のモナコGPとしてF1レースが開催され、歴史に残るバトルが展開されました。圧倒的な速さで独走状態だったウィリアムズ・ルノーのナイジェル・マンセルが残り8周というところでタイヤに異変を感じてピットに入った間にトップに立ったアイルトン・セナが、マンセルの猛追を振り切って優勝したのです。セナのタイヤはすでに限界に近付いていたこともあり、残り2周からはセナに対して度々ブルーフラッグが振られるほどマシンのポテンシャルは圧倒的な差があったにもかかわらず、徹底的なミラーチェックでマンセルのアタックを封じ込めるというセナの真骨頂が存分に見られたレースでした。手に汗握るバトルの極めつけといっていいでしょうね。セナファンだった私は祈るような気持ちで見ていたことを思い出します。
このころセナのレースぶりは円熟の域に達しており、若手時代のようにプレッシャーをかけられて自滅するような不安は全く感じていなかったですが、何しろ相手がマンセルですからね。無理なアタックを仕掛けられて全てが台無しになるのが心配でした。いっぽうのマンセルには未だに角が取れていないというか、相変わらず何をしでかすかわからない不気味さは健在で えっ?と思うようなポカをしでかす意外性に富んでいましたから。
ピットインの判断にも私は懐疑的でした。もちろんタイヤ異変の詳細がわからない以上、ドライバーが無理と思ったなら無理なのでしょうが、残り8周ですからね。マシン自体のポテンシャルを考えると、これがセナならば何とか走りきれたんじゃないかと… このあたり全幅の信頼を寄せられない面は、やはり過去の実績がものを言いますよね。絶好調時のマンセルはマシンのコンディション把握にも冴えを見せますが、そうでないときは状況判断を誤って致命的なミスを犯すこともままありましたから… トラブルの原因はナットの緩みだったそうですが、そのまま走り続けていたらどうなっていたかは神のみぞ知るということですね。まあマンセルのことですから、タイヤが外れて終了!という顛末でしょう。
この時代、日本ではセナ・マンセルにアラン・プロストとネルソン・ピケを加えて「四天王」と呼ばれていましたが、私はマンセルを他の三人と同格とは思っていません。一言でいうとセナは正真正銘の天才、プロストは天才に限りなく近い秀才、ピケは天才肌ですが、マンセルはどれでもないと。彼らに勝っているのは直情径行な意外性だけでしょう。ドライビングはケケ・ロズベルグに近いですがケケほど派手ではないですし。それに歴史を鑑みると、複数回頂点に立ったドライバーと一回だけのドライバーには埋められない大きな溝があると思うのです。まあ、ケケ同様一度でもチャンピオンを獲れてラッキーだったなという認識です。ウィリアムズ・ルノーでの王座獲得はマシンのアドバンテージによる部分が非常に大きかったですからね。ただし、その走りからは鬼気迫る気迫が感じられたことは認めざるを得ません。
ロータス時代のマンセルは嫌いじゃなかったんですよ。市街地コースや雨のレースで速さを見せてトップを走ったりしながらも自滅することが多く、アンドレア・デ・チェザリスに通ずるキャラでした。結局美味しいところはエースのエリオ・デ・アンジェリスに持っていかれるという損な役回りでしたね。そんなわけで、まぐれで勝つことはあっても王座を争う存在になるとは夢にも考えていませんでした。しかし、テスト嫌いで有名だったエリオに代わってマシン開発を精力的にこなし、それがウィリアムズの目に留まって抜擢されることになるのですから、何が幸いするかわかりません。
ところがウィリアムズ移籍で注目を浴び、その人となりが明らかになるにつれて個人的な好感度がどんどん下がっていくことになります。マスコミに対するぞんざいな態度が顰蹙を買っていることなどです。つまりトラック外での身の処し方、人格面で好ましい人物ではないと。なぜか印象が悪くなるとレースを見ているときの心持もネガティブなものに振れ、応援する気が失せていったのです。ピケのウィリアムズ移籍初年度は、まだマンセル贔屓だった記憶がありますが、翌年には完全にアンチでした。不思議なものです。
マンセルが記憶に残るドライバーだったのは間違いないでしょう。ただしそれは、個人的にはピケ・セナなどのライバルとしてなんですよね。マンセルファンには怒られるでしょうが、彼は真に偉大なドライバーの引き立て役に過ぎず「無冠の帝王」のまま終わるほうが相応しかったというのが正直なところです。
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